「俺に抱かれればすべてを救ってやろう」
お前が望むとおりにすべてを。
双眸が、弧を描いた。


栄華を極めた我が国が衰退して幾年。弱体化した王権と反比例して諸侯たちは力をつけていき、今では王を操るほどである。
嘗ては友好を深めた国も今はなく、政治は乱れる有様であった。
私が洗礼を待たずして王位を得たのも、そういった経緯からであった。母の親族が実権を握る傀儡政治となるのも、もはや無理からぬことと言えよう。
二十になっても政をすることは出来ず、親族の勢いが増すばかりであり、何よりも生母がその領袖であったため権力は砂上の楼閣が如しであった。
一族に逆らう者は罰し、従う者は盛り立てる。
政治も、妻も。
それは儚くも泡沫の夢の如し結末を迎えるのである。
妃は子を産まなかった。いや、産めなかった。剰え男、女関係なく淫らに振る舞い、怒り狂った母に王宮を追い出された。九族に至るまで怒りを受け、それでもまだ足りぬと息巻いていた。
今度は間違いがないようにと十人ほど入れたが、これもまた子を産まなかった。一人が過ちを犯し、私に子を作れないと叩きつけられた時の母の顔は今でも覚えている。
それならば、と継承権を持つ王族を殺し、親族へ王位を継がせようとした。
そこへ、隣国の王が攻め入ったのは自然の理であったろう。
一夜にして王都まで攻め入られ、母や親族はとるものもとりあえず王宮から逃げ出したが親征軍に切られたようだ。
私は一人、玉座から引きずり降ろされた。
後ろ手に縛られ、身動きできぬよう拘束された私を、王は見下ろした。
玉座に頬杖をついて、色のない双眸で映す。
ああ、これで終わりか。
特になんの意味もなかった人生の終わりを今にして感じる。だが、今更にして生きたいだの感じることはなかった。
そう躾けられたからだ。
「俺に抱かれればすべてを救ってやろう」
お前が望むとおりにすべてを。
双眸が、弧を描いた。
「す、べて……」
「ああ。すべて、だ」
真実、王は言葉を違えないだろう。
すべてを救ってくれるに違いない。
すべて。
すべて?
今更?私には何一つ残っていない。
母も、妻も切り殺された。弟も姉もいない。
守るべき民も知らない。
「どうだ?」
王は、嗤った。
「あなたの御心のままに」
双眸を細めて、口角をあげた。
「今宵、閨へ連れて来い」
月夜が隠れることのない夜。
私は閨へと連れ行かれた。私のものだったそこに、我が物顔で居座っていた。
来い。
王は、手招いた。
言葉に従う。
「美しいな」
顎をすくい、薄い生地をまとった私を眺める。
「一目見たときから決めていた。おまえをこの手に抱くと」
なるほど。好色なのか。
王は、首を振る。
「色に狂うほど困っておらん。ーーだが、おまえは別だ」
唇が、重なる。
さらりとした生地が、するりと肌を滑り落ちていく。
「愛いな」
首筋、胸、するすると唇が落ちていく。
漸く下肢へと辿り着き、肉竿に触れ、後孔に達したときには息も絶え絶えだった。
そして、さらりとした生地に隠していたそれが光る。
「おまえ……っ」
首筋に刃を当てた私に、王は血相を変えた。
「あなたは言葉どおりすべてを救うでしょう。民も、国も」
そこに母や親族はない。
「あなたは、王だから」
救う他ないのだ。すべてを根絶やしになど出来やしないのだから。
「だから、決めていました。ーー一生私を抱けなかった煩悩に苛まれなさい」
「やめろ!」
私を愛したあなたの、運の尽きです。
いずれにしろ私で絶えていた王家を滅ぼしたことではない。あなたの蹂躙に私は抗うのだ。
刃が、首を滑る。落ちたのは、鮮血。
「叶うなら……」
「っ、」
王は、耳を傾けた。けれど、私はその先を閉ざした。
王の声を遠くで聞いて、私はそこで私を終えた。
叶うなら、あなたに愛されるときに生まれたかった。

クウさんより、「ラブとロマンス」 ほんとはエロス
     
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