ふぅむ、と朔郎は顎に指を添えた。
彩る可愛らしいコーナー。男一人佇むにはあまりにも異色を放っていた。
しかし、とんと他人のことには全く興味を示さないので物言いたげな少女から女性まで様々な年代の視線をものともせず、じっくりと物色していた。
世間ではこの一大イベントのために決死の思いで贈り物を渡すらしい。朔郎にはそこまでの気持ちはなかったが、やはりそれもよいかもしれないと思う。
いろとりどりの可愛らしい品々。けれど、一等目を惹くものはなかった。
否。どれも十分だ。それは、贈りたいものとは違うのだと思う。
朔郎の恋人は何を贈ってもきっと喜ぶだろう。精悍な顔立ちをそっと緩めて、ありがとう、といってくれるだろう。だからこそ、びびっと来ないものを贈りたくない。
さて、どうしたものか。
手作りなど論外だ。台所には入るなと言われている。
ふぅむ、と物憂げにコーナーの目の前を陣取った。
「はい、どいたどいた」
妙齢の女性に邪険にされるまで。


「さーき」
「ん?……っ、さく!」
早煕はぎょっと目を剥き、甘いマスクを崩した。手早くカーディガンをかけようとするも、恋人によって払われてしまった。
「さく!」
「俺さぁ、考えたんだよね。ちゃんと。でも、これってのが思いつかなかったから、はい!」
「まさかそれは……」
「うん。俺を食べて」
にっ。半月が昇る。
「……」
「なんだよーそんなガッツリ呆れなくてもいいだろー」
ぶーぶーと文句を募らせる恋人は置いておいて、天を仰ぐ。
期待はしていた。しないはずがない。恋人の日なのだから。手作りではなくても、甘いにおいに胸をときめかせた。
「なーぁーさーきーぃ」
中身がどろぅりと入ったボウル。
素っ裸でそれだけなんて滑稽この上ない。
「甘くないだろうな」
「ばっちし」
「……」
なんだろう。そこはかとなくやるせなさが漂う。
「愛情で俺を包んでね
……………。
チクショウ、なんでこんなのが好きなんだ。
ちっとも恋人のことなど気にしてない、多分きっと恋人のはずの男を抱いた。思惑通り、寝室へと足を運ぶ。
もうちょっとムードとか、甘さとか、ときめきとか欲しかったとか今更思ってももう遅い。
「さき」
後で言ってやろう。
「ハッピーバレンタイン
来年はやめろ。

まむさんより。テーマは「ビター」と「ラッピング」
     
return
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -