30.December
 ブレスレットは手首にするもの。指輪は指にはめるもの。ピアスは耳に刺すもの。ネックレスは首に飾るもの。
 飾るための装飾品に分類されるそれらには、僕はとんと縁がなかった。わけでもない。兄さんがこの店をかまえていることもだが、僕も装飾品は必ず一つは付けるからだ。学校ではピアスね。
 兄さんの店に来たのは、女々しいけど秋音とお揃いが欲しかったから。言えば秋音は絶対女みたいだから嫌だって、店まで引きずらなきゃいけない事態になるだろうから、ここは口を閉ざした。口は災いの元って言うしね。
「ちょっと待っててねえ〜」って、何時もの調子で裏に行った兄さんを見送って、その間に店内を見物して。十数分してから兄さんは戻ってきた。
 兄さんの手には紙袋が握られていて、紙袋の中にはケースが沢山。全部新作らしい。因みに、これらを作ってるのは兄さんの相方さんで、兄さんは売るのが専門。相方さんは表に出るのが嫌らしい。シャイとかじゃなくて、面倒らしいけど本当かなって思う。
 僕が学校にも着けていけそうなピアスではなくブレスレットを選んだのは、秋音の耳に穴を開けさせて傷付けることをしたくなかった。ピアスは束縛してるみたいで惹かれたけど、秋音に傷が付いたら意味ないって思った。そしたら、選べなかった。選ばなかったのではなく、選べなかったのだ。
「秋音、好きな色ある?」
「……お前、まさか…」
「ダメ?」
 秋音は感づいたらしい。意外とそういうとこ、嫌いじゃない。だって猫みたいに毛を逆立てて威嚇してるから、楽しくなる。
「クリスマスプレゼント、何もあげられなかったから」
「……俺もやってねえんだけど」
「秋音は手料理振る舞ってくれたよ」
 間。
「兄貴…」
「う、五月蝿え!」
 あーあ。照れちゃって。マジ?とでも言いたげな、弟君の視線に渋面になっている。
 反論するにも事実なのでどうしようもない秋音に、そろそろ可哀想になって助け船を出してやる。本音は、もっと見ていたいんだけどね。流石にそんなに意地悪したら、猫はつーんってしちゃうでしょ?やだもん、それ。可愛いけど、嫌。
「じゃあさ、お揃い着けてくれたら嬉しいから、ね?」
「……しゃあねえな」
 舌打ちは聞こえない聞こえない。秋音は渋々でも承諾してくれたんだから。
 結局、僕は青、秋音は緑のシンプルで余計な装飾がついていないものを選んだ。自信作と言うだけあってとても綺麗だ。宝石はそれぞれに青玉と緑柱石が一つだけ、それも小粒がはめ込まれている。女の子とかだと、嫌とか言いそうだけど僕はこのくらいがいい。控え目な青と緑は、宝石よりブレスレット本体を目立たせている。
 凄く気に入って、僕は兄さんに値段を聞く前に即決して衝動買いしてしまった。いや、元々買うつもりで行ったから、衝動買いではないかも。
「秋音」
「何だ」
「お揃いだね」
「……ばーろー」
 うん。秋音、その言葉何処で覚えてきたの?



 兄さんの店を出て、僕らはまっすぐ家に帰った。まだぶらぶらしても良かったんだけど、大晦日前ってことで人混みが半端じゃないし、僕もブレスレットを買えたから満足してる。
「楽しかったよ、秋音」
「過去形か」
「そうだね。お家に帰るまでがデートだから、楽しい、だね」
「……遠足か」
 機嫌が良くて呟いた言葉だったが、秋音はしっかり訂正。それがまた嬉しくて訂正したら、突っ込みを入れられて。
 こんな気分になるのも、腕に控え目に光る青と緑の色違いのブレスレットのせいかもしれない。秋音と初めてのお揃い、それもブレスレット。アンクレットとかも考えたけど、学生って靴下履くし邪魔になっちゃいそうだからね。
 足首にアンクレットもそそられるけど、ちょっと危ない映画の監禁シーンみたいで。でも、それは恐怖感とかを増長するものだし、ブレスレットは手に付けられなくても大事に仕舞っておいたらいいかなって思って。
「秋音って兄弟いたんだね」
「上に兄と下に妹もいる」
「じゃあ、大家族だ」
 僕は一人が多いし、元々一人っ子だから憧れる。お兄ちゃんのお下がりとか、弟にお下がりあげたりとか。あ、でも兄さんからお下がり貰ったりとかあるから、ちょっと体験してるかな。
「五月蝿えだけだ。晩飯は争奪戦になって、妹はいっつも出遅れて、あんま食えなくて、ピーピー泣いて。そしたら秋沙か兄貴が見かねて分けるんだ」
「秋音は?」
「俺のもんは俺のもん」
「ふふ。秋音らしい」
「うっせ。さっさと帰るぞ」
「うん、そうだね」
 きっとお兄さんや秋沙君が先に分けてしまって、出遅れるんだろうな。なんて思ったのは内緒。
 だって、珍しく秋音から手を繋いでくれたし。今日はもう苛めないであげよう。
 クスクス笑う僕を秋音が何だって睨むのは、すぐ。上目遣いにしか見えなくて、思わず可愛いって呟いたら拗ねてしまうのも仕方ないよね。
     
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