30.December
 俺と兄貴は二つ違いの兄弟だ。
 兄貴は俺と違って、勉強も運動もそこそこで、俺と違って普通の公立高校に行ったが、仲は普通。悪いわけじゃないが、高校が違うことから話す機会を失っていた。更に、兄貴はここ最近あまり帰って来なくなり、笠間が来た時もいなかった。
 だから、笠間は俺に兄貴がいることは知らない。
「辛島、この人知りあい?」
 誰って聞かなかった笠間を、今は褒めてやりたい。とうとう知り合いを覚えたか。ここまで教育したのは俺みたいなものだから、雛を見守る親鳥の気持ちがよく分かる。
「ああ、俺の兄貴」
「え、辛島、兄貴いたの?」
「ああ。俺より二つ上だ。高校も違うし、分からなくても仕方ない」
 身長が百七十後半ある俺に対して、兄貴は百七十もないんだから。親戚にもよく似てないって言われるし。
「あ、でも口が似てる」
「は?」
 だから、笠間の言葉は、俺にとっては予想外だった。今まで似てないと散々言われてきたから、何を言ってるんだと思った。が、兄貴の横にいる人も、賛同したので、言い返せなくなってしまった。
「薄い唇とか、ちょっと赤いとこでしょ?」
「そうそう!似てるよね!?」
 敬語を使え、敬語を。
「ああ、だから既視感があったのか」
「キシ…?」
「ん?見覚えがあるってことかな」
「ああ!」
 そして、何俺以外から言葉を教わっている。と言うか、他人におバカぷりを披露しなくて宜しい。
「秋沙、ソイツ…」
「ああ、うん。俺の…友人。笠間。秋音、この人は俺の兄貴」
「秋音。コイツは厚真」
「宜しくね。秋音の友人で、厚真は苗字だから熾人でいいよ」
「タルヒト…と、アキト…。あ、おれも晦馬で」
 いきなり呼び捨てか。でも、笠間に、ここで敬語とかの頭脳はまだ無いからな…。この二人も気にしてなさそうだし、放っといていいかな。
「秋沙。家に最近いないが、晦馬の家に泊まってたのか?」
「うん。多分、これからも晦馬の家にいることが多くなると思う」
 両親が共働きであまり家にいないこともあり、俺達は自分のご飯を交代で作ったりしていた。だから、お互い適当に料理は出来るけど、最近は兄貴がいなかったから、俺は一人分しか作らなかった。それに、これからは笠間の家にいることが多くなると思うし、家には誰もいなくなるだろう。
「一週間に一度は帰れ。母さん達に心配をわざわざかけることは無いし、埃っぽくなる」
「うん。そうするよ」
 兄貴も多分、一週間に一度は帰るんだろう。荷物は他のとこにあっても、母さん達が働き続ける限りは、家事は自分達でしないといけないから。それに、帰り辛くならないように敢えて言ってくれる兄貴に、やっぱり兄貴だなあなんて思ったり。
「あら〜ん?たあちゃん、来てたの?って、あら。くうちゃんも」
 しかし、そんな感激は突如現れた、鳥肌の立つ声によって遮られた。
「あ、菊ちゃん!」
「…兄さん」
 ちょっと待てい。笠間、これに違和感を感じないのか!?明らかにおかしいだろ!言葉はお姉さんって言うか、ちょっと変。だが、格好が可愛い系にも関わらず、ゴツい。兎に角ゴツい。え、何これ?
 って言うか、熾人さん。あなた、今、あれを兄貴って言いませんでしたか!?兄!?あれが!?
「あら〜。二人、一緒に来てたの?ん〜。そっちはツレ?」
「久し振り。コイツはおれの…だ、ダチ!」
 そこで焦るな。ああ、きっとモロバレだ。何か勘付いた顔してるじゃないか。全然隠せてないのに、危機は遠ざかったぜ。みたいな顔してるし。否、全然遠ざかってないから。
「今日は。辛島秋沙と言います」
 取り敢えず、胸中がバレない様に、努めて冷静に自己紹介をした。うん、俺、頑張った。
「はい。宜しくね〜」
 ちょ、ちょっと…遠慮したい。
「兄さん、こっちは僕のツレ。辛島秋音」
 兄貴は頭を下げた。あ、絶対怪しんでる。て言うか、傍目にも明らかな物凄い怪しんでる顔しないで!俺がいること忘れてるでしょ。
「あら?二人は兄弟?」
「はい。俺が、弟です」
「まあまあ、お兄さん小さいのね〜」
「……は、ハハハハハハ…」
 今、地雷踏んだ…。
「私は厚真菊子。菊ちゃんって呼んでね★」
「何言ってんだ、菊ちゃん。菊陽だろ」
 バラしたー!!
 絶対、オカマには禁句なのに、本名は。つか、カッコいい名前だな、菊…さん。
「んもう、くうちゃん。バラしちゃダメって言ったでしょ〜?」
「何でバラしちゃダメなんだよ。カッコいいじゃねえか」
 オカマだから。って言うのは置いといて、何気にカッコいいとか言っちゃた?しかも、何か菊さん喜んでる!いいのか、それで。
 ……いいや。もう、突っ込むの疲れた。
「二人とも、今回は何をお探し?」
「あ、おれピアス」
「あ、僕はブレスレットを」
 あ、そうだったの?って思ったのは俺だけじゃなかったらしく、兄貴もそうなんだって顔で熾人さんを見ていた。え、知らないの俺ら兄弟だけ?
     
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