30.December
 クリスマスは俺の恥で終わった気がする。自分でも、何故あんなことをしてしまったのか。疑問だ。
 コイツは一人暮らしだからと言う理由で、俺はクリスマスから殆どコイツの家に転がり込んでいた。迷惑とか知ったことかと息巻いていたら、コイツは迷惑なわけないとか嘯いて。だけど、ホント嬉しそうにするから。うっかり騙されそうになる。
 いかんいかん。こんな天然たらしに一々たらされてたら、俺はモロにオトメンじゃないか。
「秋音」
 余計なことを考えてしまう頭をぶんぶん振っていると、コイツが俺を呼んだ。何だと振り返ると、コイツは買い物に行こうと俺を誘った。買い物?そんなもん、行く必要はない。俺が慌てなくていいように、日持ちするものとか、後は新鮮なものもきっちり買ってあるし。買い物に行かないための準備は万端だ。
「違うよ、秋音」
 だけど、コイツは俺の考えを真っ向から否定しやがった。ムカつくから脛を蹴ってやりたかったけど、どうやら続きがあるみたいなので、留まってやった。これでクダラネエことだったら、刺す。
「人多いだろうけど、デート行こうよ」
「……バカか?」
 よし。やっぱクダンネエことだった。蹴っていいよな?よし、俺が許す。と、足を少し上げたら、まだ先があるようで待てと言う。もう待ちくたびれたっつーの。だが、聞いてやらない程鬼でもないから、足を下ろして、早く言えと先を促す。
「大晦日にはまだなってないから、人はまだマシだと思うけど。僕達デートしたことないから」
「……」
 それは、俺とデートしたいと?この、俺と?何だそれ。俺が少女漫画みたいに、まあ嬉しいって泣いて喜ぶと思ってんのか。そんなオトメンだとでも?オイ、コラ。俺をオトメンにする気かコノヤロウ。誰がなるか、そんな胸糞ワリイ気色悪いもんに。
「ね、行こう」
「…昼はモスのモスチーズだからな!!」
「…ふふ。了解」
 モスにつられただけだ…。俺は、モスのために外に行くんだ。決してオトメンみたいな、デートにひかれたわけじゃない。決して!



「多いね。やっぱり」
 年末と言うこともあり、人通りはバカじゃねえの?何でこんな時期に外出てんだよ。って、言いたくなるくらい多くて、俺はらしくもなく、コイツから逸れてしまわないように、コートの裾を握っていた。決して、手が繋げないからとかじゃないから!マジで!
「当たり前だろ」
 いっそ、感心していたコイツに、呆れて素っ気無い言い方になる。が、実はこの人混みの中でも、結構機嫌が良かったりする。コイツがいるからじゃ……ないことは、ない。
 俺達はまず、アクセサリーショップに入った。どうやら、コイツの御用達らしく、店内を知ったかんじでズカズカ歩く。ちょっと高そうな金のアクセサリーや、やっぱりちょっと高そうな銀細工のアクセサリー。普段の俺だったら、財布の中身の寂しさに絶対選ばないようなものばかり。
「こんなとこ、何時も来てんのか」
「偶に、ね。ここの店長が、俺のいと…こだから」
「へえ」
「秋音、気に入られると思うから、学校帰りとかにお茶飲みに来るといいよ」
 あ、でも最近来てなかったから怒られるなとか、冗談言える気力があるコイツが、正直言ってかなり羨ましい。俺は、普段から、こんなとこ来ないから。緊張しまくりだって言うのに。
 コイツに手を引かれてるのに、マイナス思考になってしまったことが不愉快で、コイツの手を握った。何かを察したように、コイツもぎゅっと握り返す。
 何だか、甘い空気になったけど、ちょっとこのままこうしてたいなとか思った。その時、来客を知らせる音がして、そっちに目を向けた。

「おや?」
「あ?」

「……」
「んん?」

 俺は、あまりにも驚き過ぎて、固まってしまった。その様子にコイツは楽しそうにしてるし、しかもアイツも同じように固まってるし。その隣の奴はワケワカンネエって言う顔で、キョロキョロしてるし。でも、俺もワケワカンネエから、今は隣の奴のことなんかどうでもいい。問題は、もっと別にあるんだから。
 取り敢えず、俺が言うことは、
「何でここにいる――秋沙」
 それだった。
 固まったままの俺が漸く口を開いたことで、コイツもちょっと面白そうにしてるし。何かムカつくけど、後で刺せばいいことだ。
 そして相手が言うことはと言えば、勿論、
「兄貴こそ、何でここに?」
 だっだ。
 兄と俺を呼んだ相手は勿論、二つ下の弟だった。二つも下だが、俺と違ってかなり優秀で、学校も金持ちが通うようなところに、推薦で余裕で行けるような奴だ。俺とは月と鼈、雲泥の差がある、兄としては憎い奴だ。だが、別に心底恨んでるわけじゃなく、兄弟仲は普通。
 しかし、これは予想してなかった。

 秋音と秋沙は実の兄弟である。秋音が今年で一八になり、秋沙は一六になる。
 そして、二人の姓は、
「辛島、どうしだの?」
 辛島、である。
     
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