December23-24
 高校二年のクリスマスイブ前日。つまり、日本では天皇誕生日である。
 明日はどうやって過ごそうかと色めき立った終業式を終え、明日はクリスマスイブ、明後日はクリスマスと願ってもない行事続きに高校生達は浮かれる。街には煌びやかな赤、緑、橙、黄、紫とカラフルな色がチカチカと点滅し、商店が並ぶ場所でなくともライトアップが目立っていた。クリスマスツリーは我一番と各精一杯背比べを繰り広げ、自分が一番綺麗だとこれまたチカチカとした明かりを点滅させていた。
 デパートやショッピングモールはここが稼ぎ時だと言わんばかりに、又、ここぞとばかりにビラを配ったりサンタやトナカイ、変なキャラクターが「来てね」とかの襷を着けて歩いている。これは、勧誘でいいのだろうかとか柄にもなくぼんやり考えた。
 大型デパートを通り過ぎ、人通りが次第に疎らになって、それがやがて皆無になる。人一人見かけない道を、無駄に考えごとを巡らせて歩けば、自宅が見えた。
 実は、僕は一人暮らしだ。
 両親はアメリカにいる。二人とも生粋の日本人だが、何故か僕にも二人にもさっぱりなのだが、アメリカが好きならしい。それなら、そのまま向こうでブクブクただ無駄に太ればいいと、こっちに帰ってきたのは中学に上がる前。
 物心つく前から住んでいたとは言え、僕は普段から小食で。ただでさえ日本人の中でもあまり食べない方だと言うのに、向こうの量が僕の胃袋に通じるはずもなく。何時も両親や友人に分けたりしていた。
 せめてもの救いは、ご飯が不味いとよく聞くイギリスが好きと言われなかったことだろう。イギリスの人には申し訳ないが、あの温厚な大物ハリウッド俳優も、あまりの不味さにブチキレて日本食を食べたと言うほど。絶対イギリスに行くもんかと心に誓ったのは、記憶に新しい。
 帰宅すると、見慣れた我が家に感慨が沸くわけもなく、とっとと中に入って玄関の鍵を閉める。靴を靴棚に入れて、ちょっとだけ小走りになって台所に入ると、遅いとピシャリと怒られた。
「仕様がないでしょ。スーパー混んでたんだから」
「そこはお前特有の胡散臭いハニカミで譲らせろよ」
「………何それ」
「……分かってないのか」
 思ったことを口に出したら、僕を帰宅早々怒ったソファーにどっかりと偉そうにふんぞり返って腰掛ける彼は、呆れたような眼差しを向けた。何か変なこと言ったかと、首を傾げたら何でもないとはぐらかされた。
 一体、何だろう。
「秋音、買ってきたよ。ちゃんと」
 兎に角、話を切り替えようと買い物袋を渡す。僕は要らないって言ったんだけど、彼――秋音がどうしても持っていけって言うから仕方無しだ。
 秋音は差し出した買い物袋を当たり前だと言って、ぶっきらぼうに受け取って中身を確認し、よしと満足げに頷いた。可愛いのに、こういう男らしいところが可愛いなんて言ったら、きっとまた鉄拳を食らうに違いないから誤魔化すようにはにかんだ。
 それを俺にしてどうするって、呆れられたけど。
 何故秋音がここに、僕の家にいるかと言うと。



「おい」
「ん?なあに、秋音」
 終業式終了後、生徒がさあ帰宅しようと足取り軽やかに帰宅したり、ああ今日も部活だと肩を落としたり、よっしゃ今日もやってやるぜと部活に行くのに意気込んだりとしてる中。秋音は、何時も通り僕に話し掛けた。
 クラスメートはもう慣れたみたいで、今では気に留める様子は伺えない。
 同様に、大分秋音の扱いに慣れた僕は先を促す。ぶっきらぼうだから、これが精一杯なんてどう見ても可愛すぎる。今ここで抱き締めない僕、褒められてもいいはず。
「クリスマス、家族と過ごすのか」
 どうやったらそんなにって思うくらい、言いにくそうに言う秋音。シャイなのも限度がある。こんなに可愛いのに、よく今まで誰も目を向けなかったな。
 みんな節穴で有難う。
 僕が意味不明な感謝をしていると、秋音はじれたようでおいって聞いてくる。それに慌てて、ううん一人って首を横に振る。
 すると、秋音の目が点になった。どうしたのかなあって様子を見ていると、やがて我に返りどもりながらも言葉を紡いだ。
「お、お前、一人って…家族は……」
「アメリカ」
「は?」
 あれって、漸くそこで僕は違和感に気付いた。
「言ってなかった?僕、一人暮らしだよ」



 あの後、「そんなことはさっさと言え!こんのボケナスが!」と秋音に頭を叩かれ、半強制的に秋音が二三日から二六日までお泊まりするに至った。僕は寂しくないし、逆にご両親に申し訳なくていいのって聞いたら、「お前、人のこと言えた立場か。ええ?」と、やのつくお仕事してる人並みに凄まれた。そっち系なら、秋音は優秀かもしれないと思ったのは秘密。
 そして今日。
 こうして買い物に駆り出され、一人寒空の下を歩くハメになった。
「……何だ」
 けど、
「ん?別に?」

(秋音の料理してる姿が見れるなら、いいかなあ)

 まるで、新婚だと心の中で呟いた。
     
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