三
一方、九尾の末裔は里に戻っていた。
その日のうちに祝言をあげ、名実共に番となった。
九尾の血を唯一人受け継ぐ集落の長が番を迎えたことを言祝ぎ、狐達が押し掛けた。九尾は丁寧に応対し、仲間に番の面通しを滞りなく済ませた。
九尾の末裔といっても、最早その力が失われて久しい。今となっては、血を継ぐだけが役割の存在である。
それでも里の狐達が長として仰ぐのは、嘗て自分達を率いた九尾を神として祀り、崇拝しているからである。必然的に、その血を受け継ぐ末裔は絶対の存在となるのである。
そして、クロウサギはその血を継ぎに繋ぐ存在として、里の狐達は受け入れたのである。
九尾の末裔はクロウサギをそれはそれは大切に育てた。
産まれたばかりで乳離れしていないクロウサギを、他の狐の手も借りながら懸命に育てた。
祝言の日に迎えるはずだった初夜も、クロウサギが成長するまで待ち、優しい鳥籠の中に閉じ込めた。真綿の敷き布と、十分な餌。言い換えれば、楽園である。
皆の期待を一身に受け、クロウサギは健やかに育った。
九尾の末裔の育て方のせいか、何処へ行くにも後をついて回り、まるで親子のようだと里の狐達の心を和ませた。
九尾の末裔も自分の後をついて回る可愛い番に相好を崩し、抱き締めて「好き」「可愛い」「愛している」と言葉を挟む隙もないほどに伝えた。
ひと月ほど経って、九尾の末裔はようやっと初夜を迎えた。
唇をぎゅっと噛んで震えるクロウサギをあやし、抱き締め、大事に抱いた。
とうとう泣き出して、首を切なく振るえば、大丈夫だと、抱かせてくれと抱き締めた。
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