恋心
 人里に飼い慣らされた箱庭の中。
 その日、一羽のクロウサギが産まれた。
 産まれたばかりのクロウサギは、先に産まれたウコッケイやウサギの兄弟達と異なり、母親のウコッケイと父親のシロウサギにとってまったく手のかからない、あまり泣かない子供だった。あまりにも泣かないので、両親が揃って顔を見合わせ心配になるほどだった。
 年がら年中盛りまくって、母親のウコッケイにいたってはシロウサギをよく思っていない節がある。しかし、我が子のことになると産んですぐにシロウサギの父親にこの子は大丈夫でしょうかと、頼りにするくらいだった。
 両親の心配は無用の長物で、クロウサギはいたって健康で元気だった。比較的大人しく、泣くということをしないだけだった。
 やっと両親が大丈夫だと安心した矢先のことである。
 自分の番を探しに人里に下りた九尾の末裔は、たまたま通りがかった。
 そして、直感した。彼らが気にかけていたクロウサギの子供は自分の番であると。産まれたばかりの性も分からない子供に、心臓から身体中へ血液が沸騰したように巡った。
「見つけたぞ、我が唯一の恋心よ」
 九尾の末裔は、箱庭の中に入り、周りの目も意に介さずクロウサギを腕に抱いた。
「この子供は我が番。唯一の恋心。生涯を共にするため、我らが里に連れて行く」
 それだけを残し、九尾の末裔は箱庭を飛び出した。
 飼い慣らされた生き物には持ちえない自慢の足で、突風の如く里へ駆けた。
「待って! 返して! お願い、返して!」
 母親の悲痛な叫びも、今となってはどうでもよかった。
 番が見つかった喜びで胸の内は溢れていた。
     
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