佐伯家のいいふうふ
今日は、十一月二十二日。いい夫婦の日だ。だけど、休みじゃない。学校もあるし、授業もある。・・・宿題やってないけど。
とうちゃんも、仕事は休みじゃない。なのに、今日はなんだかおかしい。
何がおかしいかっていうと、ルンルンしてる気がする。
たとえば、朝。
「つき。つーきっ」
「・・・・・・」
「なぁ、今日はレストラン行くからな。予約してあるし、いいだろ?」
「・・・・・・」
「つーきっ」
「・・・・・・」
こんなかんじで、仕事がいそがしいのに外でごはんだけじゃなくて、予約までしてあるなんて。今日のとうちゃんは、ありえない。
しかも、朝、自分で起きてきた。そして、かあちゃんにだきつきながらのあのセリフ。
今日、雪かな?
ちらっと、空を見上げた。めっちゃ曇ってる。
そんなかんじで、とうちゃんがそわそわしてるから俺までそわそわしちゃってる。
早く授業終わらないかな。今日は久しぶりの外でごはんだから、楽しみだ!





こんな日に限って、一日は長かった。いつもどおりの時間に学校が終わったのに、早く早くって思った。
帰りの会も終わって、先生さようならの挨拶もそこそこに、おれはランドセルを右手にもうダッシュ。
きっと、家ではかあちゃんがまってる。だから、早く帰って、早く行きたい。かあちゃんも楽しみにしてるかな?してるといいなぁ。





「ただいま!!!」
「おかえ・・・た、たく?!どうしたんだ、そんな汗だくで・・・」
家に帰ったら、かあちゃんは部屋にいた。とうちゃんといつもねてる、かあちゃんたちの部屋だ。
おれが帰ってくると、部屋から顔を出した。
「かあちゃん、早く!」
「え、」
「はーやーくーぅ!!」
「え、ちょ、たく?」
おれは待ちきれなくて、かあちゃんの腕をひっぱった。かあちゃんはよくわかってない、ってかんじだ。こまった顔をしてる。
「はやく行こう!おれ、今日、楽しみにしてたんだ!」
「た、たく・・・」
「それとも、かあちゃんは、いや?」
よく考えたら、とうちゃんがルンルンなときも、ずっとだんまりだった。もしかしたら、行きたくなかったのかな。おれ、楽しみだったんだけど、かあちゃんはいやだったのかな。
やだなぁ。おれ、行きたいよぅ。
「た、たく!ちが、」
「え?」
「た、楽しみだよ!」
「ホント!?あ、でも・・・」
かあちゃんの楽しみ、って言葉に嬉しくなった。でも、かあちゃんはおれがいきたいから、そういってくれたのかな。今も、あんまり楽しみじゃなさそう。
「かあちゃん、本当?おれがいきたいから、しょうがないから?」
「ち、違う!ただ・・・」
「ただ?」
「は、恥ずかしかっただけっ!」
うつむいて、顔を真っ赤にしたかあちゃん。
おれは、びっくりした。かあちゃんでも、はずかしいって思うことあるんだ。大人なのに。
でも、うれしい。かあちゃんも、楽しみにしてたんだ。
「へへっ。早くいこっ」
「あ、ああ」





時間よりも早くついちゃって、時間をつぶして、夜九時。おれたちは、早く仕事を終わらせて汗だくになったとうちゃんとレストランに入った。でっかい建物のなかにあって、最上階にあるんだって。
おれたちの席は、まどのとなりで眺めもサイコーだった。
「かあちゃんみてみて!ここからだと、人がちっせえ!アハハ、今ならおれ、足でつぶせるよ!」
「ハハ、たくは踏み潰すのか?」
「うん!巨人になって強くなるんだ!」
「それはすごいなぁ。とうちゃんも踏みつぶされちまうな」
「つぶさないよ!かあちゃんととうちゃんは、おれのしろにつれてってやるんだから!」
「城か!それは、いい!」
はじめてみる景色におれはワクワクして、すっげー高そうなレストランだったけど、はしゃいでしまった。みんな、すげーしんとしてるけど、おれはワクワクしてしかたない。
「たく、静かにしなさい」
「ぶー!」
「たく!」
「はーい!」
でも、かあちゃんにおこられた。ちょっと、くやしい。せっかく、おれのしろでかあちゃんをまもってあげようと思ったのにー!
「もうちょっとで、メシがくるから、それまで待っててな」
「はーぁい」
おれはちょっとむくれて、返事をした。
しかたない。メシのためだ。
だけど、横でかあちゃんはおっきなためいきをついた。
「・・・だいたい、なんでいきなりこんな高い店に。たくが興奮するって分かってるだろ?」
「つき、」
「だってそうだろ?」
かあちゃんは、ちょっとおこってるかんじだ。おれが、おとなしくしてなかったからかな?
とうちゃんもちょっとこまった顔をしてて、おれは悲しくなる。
せっかくの外でのひさしぶりのごはんなのに、おれ、だいなしにしちゃったのかな?
「確かに、つきの言うことにも一理ある。だがな、おれは、お礼したかったんだ」
「お礼?」
「おれと結婚して、夫婦でいてくれたことに」
「・・・・・・流次」
「でも、たくがいてこその俺ら夫婦だろ?」
だって、家族なんだから。
「だから、家族で来たかったんだ」
かあちゃんは、さっきまでのチクチクしたかんじじゃなくて、泣きそうになってた。なんだかわかんないけど、やっぱりおれがはしゃぎすぎたのがだめだった?かあちゃんを泣かしちゃった?
どうしよう、おれ。せっかくの外でごはんなのに。もうちょっとがまんすればよかった。
「う、うえぇ・・・」
「た、たく?!!」
気づいたら、ボロボロ泣いてた。
ごめん、かあちゃん。せっかく楽しみにしてたのに。おれのせいで、いやなきもちにさせた。ごめん。
「な、泣くな!な?!」
「だってぇ、おれがはしゃぎすぎたから、かあちゃんいやになったー!」
「ええ?!!」
バカだ、おれ。かあちゃんもとうちゃんも楽しみにしてたのに。ちょっとがまんすればよかったのに。
「ち、違うんだ!た、たく!!」
「うぇ、なにが?」
「は、恥ずかしかっただけで、たくがはしゃいだからいやになったとか、そんなことない!」
「でもぉ」
「たくと一緒に来れて嬉しいよ!」
「・・・ホント?」
「ほ、ホントだ!」
「・・・へへ」
なーんだ。おれのはやとちりだっのか。よかった、かあちゃんがいやじゃなくて。
「たく、つき」
「ん?なに?とうちゃん」
「ありがとう」
「んん?んー・・・うん!」
「・・・おれも、」
「ん?」
「あ、りがと・・・」
「ああ!」

夫婦でいてくれて、ありがとう。
家族を、ありがとう。




     
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