佐伯家の朝
 おれは、燃。って書いて「たく」。小学六年生の十二才。
 おれの本当のとうちゃんとかあちゃんは、おれがちっさいときにいなくなった。「事こ」で死んだらしい。おれがおぼえてないくらいちっさい三才のときのことだ。
 とうちゃんとかあちゃんは、「カケオチ」してて、おれのことなんててまのかかるクソガキにしか思われてなかった。だから、親せきじゅうをたらい回しされた。
 どこも行くあてがなくて「こじいん」におしこめられそうだったところを、今のとうちゃんとかあちゃんが拾ってくれたらしい。らしい、っていうのは、おれもまだ小さくておぼえてなくて、とうちゃんとかあちゃんに聞いた話だからだ。
 それからは、とうちゃんとかあちゃんがおれを育ててくれた。学校にも行かせてくれて、おれは本当のとうちゃんとかあちゃんには悪いけど、もう今のとうちゃんとかあちゃんがおれのとうちゃんとかあちゃんだ。まあ、早く死んだのが悪いと思って天国であきらめてよ。
 まあ、そんなフクザツな事情があるいがいはわりとどこにでもい………、
「おるぁあっ!起きろって言ってんだろ!燃の朝飯残す気かテメエ!」
「………後で、食う」
「ハァァアアッ!?何言っちゃってんの!?チッ、毎度毎度朝から愚図りやがって。手間かけさすんじゃねえよ、ダァホ!」
 訂正。
 とうちゃんとかあちゃんは、ふつうじゃなかった。
「かあちゃん」
「燃。ごめんな、父ちゃん今起こすから、先に学校に行く準備しててくれ。飯は一緒に食べるから」
「かあ」
「オンルァアアッ!燃にみっともねえトコ見せてんじゃねえよ!起きろ!起きやがれ!気合いで起きろ」
 かあちゃんは、おれの話のと中でべろーんってとうちゃんのふとんをはがした。カメみたいに丸くなったとうちゃんが、寒そうにしてる。
「……………んー………む……り」
「ハァッ!?テメエ、何言ってんだボケ!……………もういい、燃。母ちゃんと実家に帰ろう。大丈夫、俺が父ちゃんになる。いや、新しい父ちゃんがそろそろ欲しいよな?な?な?」
 かあちゃんは、ニッコリ笑っていた。なんだか笑ってないような気もするけど、たぶん気のせいというやつだろう。
 おれのとうちゃんとかあちゃんは男だ。だから、本当はとうちゃんが二人なんだけど、かあちゃんはかあちゃんでいいんだって。かあちゃんがおれをひきとったとき、かあちゃんになるカクゴをしたからかあちゃんなんだって。
「ツキ」
「燃、新しい父ちゃんはどんな奴がいい?やっぱり朝に強くて料理も出来て包容力のあるダンディーがいいか?それともこの際、朝には白いエプロンで起こしてくれる気立てのいい美人母ちゃんがいいか?」
「ツキ」
「燃、どれが………っ、」
 かあちゃんの手がはなれる。
 いつのまにか起きたとうちゃんが、ベッドからかあちゃんをぎゅっとしてる。
「ツキ。テメエは、俺のだ」
 ね起きのとうちゃんの声は、いつもよりもひくかった。
 とうちゃんにだきつかれてるかあちゃんは、ためいきをついた。
「テメエが起きねえからだろうが」
「めんどい」
「アホ。クビになったら俺だけじゃなく燃も路頭に迷うわ」
 とうちゃんが、もっとキツくかあちゃんをだきしめる。
 それをしょうがないなぁってかんじに、かあちゃんは見ていた。
 でもね、かあちゃん。
 知ってる?
 毎日毎日、とうちゃんは朝は起きないけど、本当はとうちゃんすっげえ仕事がいそがしいんだよ。いつもいつもかあちゃんがねた後帰ってきて、一番にかあちゃんの頭をなでるんだよ。次は、おれ。
 そんでね、かあちゃんがそのためだけにねたふりしてるのも知ってるんだよ。それでも、うれしそうな顔してとうちゃんはかあちゃんとねるんだよ。
「ツキ」
「………ったく。毎朝こんなことやってて、燃に影響が出るだろうが」
「母ちゃんが優しいから大丈夫だ」
「どんな根拠だ」
 そんでね、かあちゃん。これはとうちゃんとのひみつなんだけどね、
「流次、離せ。飯食う時間無くなる」
「………ヤダ」
「はーなーせ」
「………嫌」
「んな言い方したって可愛くねえよ。離せ」
「後もう少しだけだから、諦めろ」
「…………ったく。この俺様が」
 ねえ、かあちゃん。
 とうちゃんは、朝はぜんっぜん弱くないんだよ。ていうか、かあちゃんが起きたときにはもう目さめてるんだよ。
 でもね、
『燃、母ちゃんには内緒な?』
『でも、何で?』
『普段母ちゃんとあんま過ごせねえからな。朝くらい構ってもらいたいんだよ』
 だから、秘密な?
 かあちゃんといっしょにいたいから、ねたふりするとうちゃんはすっげえカッコ悪い。
「燃、おいで」
「うん」
 とうちゃんのうでの中にすっぽりおさまって、ぎゅーっとする。かあちゃんもおれをぎゅーっとしてくれた。

『それに、燃とはもっと一緒にいれないからな。燃は、まだ子供だから早く寝なくちゃいけねえし。燃と母ちゃんと一緒にいれるのはそんくらいだろ?』 おれとかあちゃんが好きなとうちゃんは、大好きだ。



(ツキ!もっと早く起こせよ!)
(ハァッ!?何言っちゃってんの!?テメエが起きねえのが悪いんだろが!)
(知るか!俺は朝は嫌いなんだ!)
(意味分かんねえ!このクソ俺様自己中が!)
(かあちゃん、とうちゃん。ちこく………)
(あっ)
(ギャアァアアアッ!!)
 やっぱりとうちゃんは、朝に弱いのかもしれない。
     
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