俺様の彼氏は………
 俺の名前は、藤原飛雪。至って普通の素晴らしすぎる、少年だ。
 彼氏がいることを除けば。
 彼氏の名前は、時任琢磨。
 職業、
「ひぃちゃん、いらっしゃい」
 オカマ。



「今日は、何にする?」
「ブラック」
「胃、大丈夫?」
「気にするな」
 カウンターのド真ん中に腰を下ろすと、彼氏兼オカマは注文をとる。その際、体を労れるが適当にあしらった。
 何時ものことだから、オカマは無論気にしない。
「はい、どうぞ」
「………有難う」
 少し待ってから、ブラックの珈琲を出された。その隣には、ミルク。
 これも何時ものことだ。
「ひぃちゃん、お味は?」
「旨い」
「そう、良かった」
 ホッと安堵する、オカマ。
 だが、何時も何時も変わらない珈琲を出しておいて何を不安がるのかさっぱり分からない。コイツの珈琲は、それくらい旨い。
 オカマ………琢磨は、おっとりとしたふんわりほわほわな雰囲気を持つオカマだ。ここに通い始めて三年になる気がするが、通い始めた当初はてっきり女かと思っていた。ただ、可愛らしい女なのに身長はバカみたいにあるな、と。
 だから、オカマだと知った時はそれはもうぶったまげた。実は山の木の下に捨てられていたのを拾ったのよ、って言われるのと同じくらい。………いや、無いけど。要するに、それくらいぶったまげたということだ。
 そもそもコイツは、男らしさがちっとも垣間見えないのだ。そのせいで間違えられることも多くあり、本人はそれをほわーんとはんなり返すから気持ち悪いったりゃありゃしない。オカマだから女に見られるのに抵抗ないと言うのは分かるが、彼氏がいるのに喜んでんじゃねえよ、と思う。
 っていうか、言った。
 そしたら、うん、ってまたにこにこほわーんと笑うものだからムカついてシバいてやった。それでもまだやってて、更にムカついたのは言うまでもない。
「ひぃちゃん、今日は私早いから、お家で待っててね」
「ああ」
「ふふ、楽しみだわ」
 こう見えて、コイツの淹れる珈琲は旨かったりするもんだから、店は忙しかったりする。しかも、オーナーなもんだから終わってからも忙しいことは多々ある。
 一緒に過ごせる時間は数える程度。仕事が終わってから無理矢理押し掛けるなんてガキじみたことはしない。
 寧ろ、会いたいならテメエが来い。
 それに、会える日はあるんだ。それを大切にしていけばいいと思っている。何よりもガキじゃあるめえし、イチャイチャ所構わずちちくりあってベタベタするのは俺の性に合わねえ。んなことする気もねえし。
「ひぃちゃん、楽しみね」
「………ああ」
 だが、偶に会うのも悪くはねぇんだ。
 限度っちゅーもんがあるだけで。



 夜、二一時を過ぎた頃。
「ただいま、ひぃちゃん」
「………おかえり」
 オカマは、ほわーんとした顔で帰ってきた。
「あ、良い匂いね」
「薬膳作った。最近寝てねぇだろ?」
「………ふふ、ありがと。ひぃちゃん」
「気にすんな」
 オカマは、料理が出来ないわけではない。自炊もきっちりしている。
 但し、仕事から帰った後の自炊程キツいものはないと思っている。家に帰ったら何もしたくないのが普通だろ。
 だから、こうしてここに来た時には作ってやる。そうしたら必ず嬉しそうに有難うと言って、美味しいと食べる。それは、結構いいもんだ。
「ごちそうさまでした」
「おう。ああ、流しに置いとけ。洗うから。あ、水に浸けてな」
「はーぁい」
 オカマは、嬉しそうだ。
 やっぱりして良かったと思う。恋人の疲れを出来るだけとってやりたいし。
 そうとくれば、明日の朝飯も作るか。晩は、チンしただけで食えるようなものと味噌汁でもあれば十分だろ。
「ひぃちゃん」
「ん。………?」
 呼ばれたかと思えば、首にオカマの腕が回った。ひょろっちいくせに意外とこれがしっかりした腕なんだ。
「………ったく、可愛いことしてくれんじゃねぇの?」
 ……………来たか。
 思わず溜息を漏らす。
「………化粧落とせよ」
「飛雪が可愛すぎっから、今ヤりてぇの」
 ソファーからひょいっと体が浮き、すぐにおろされる。ベッドの上に。
 顔を上げると、ほわーんとした顔はもう何処にもなかった。そこには、獲物を前に涎を垂らした飢えた肉食獣がいた。
「ここ最近オアズケ食らってたからなァ。朝までとは言わねえ……………どんだけヤれるか、楽しみだな。飛雪」
 低いバリトンが、耳に振動して徐々に食らい犯していく。さっきまでのほわーんとした声も消えた。
「せめて風呂入ってからだ」
「あ?………ククッ、いいぜ。風呂でやろうか」
「………湯船の中だとお湯入ってくるんだけど」
「じゃあ、シャワーでオナニーしろよ。そしたら考えてやる」
 ニヤッと、ニヒルな笑みにまた溜息。
「はいはい」
 ご機嫌な肉食獣は、俺を横抱きにしてバスルームに直行した。

 どうせどっちもやるんだろうけど。
 俺様な彼氏は、オカマ時々俺様でした。





(飛雪、ローションあるからマットプレイするぞ)

(………アンタってホント変態だよね)





     
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