伝説のイカレヤロー(仮)
 ある海賊マンガを読んだオレは、
「海賊王になる!」
 5才のとき、夢を持った。
 だが、現実はひでえもんだ。
 母ちゃんや父ちゃんや姉ちゃんにぶったたかれて、兄ちゃんにはばく笑されたオレは、海賊王にはなれないんだと知った。現実には、海賊もいないんだと教えられた。
 でも、どーしても強そうでカッケー海賊王になりたかった。宇宙に行くよりもなりたかった。
 だから、オレは決めた。
「不良王になる!」
 不良の存在を知った、10才のことだ。



 伊枯田高校には、とんでもなく強くてヤバくて有り得ない生徒がいる。ただでさえ、教師も裸足で逃げ出し授業も行われない不良の名門高校。その頭を張る生徒を入学式前日にぶっ倒し、入学式には新入生の筈が学校の頭になっていた、トンでもなくいかれた奴がいる。
 名は、国生孝穣。十八歳。四月三日生まれ。
 国生は、入学してから一度も負けたことがない負け知らずで、通学することもなく毎日喧嘩に明け暮れている。在学するだけで卒業出来る高校なので、その辺はバッチシだ。仮令、喧嘩に脳味噌を持っていかれたアホヤローでも卒業出来る。何せ願書を提出しただけで入学出来るような学校だ。マトモなテストだとかあるわけがない。
 今までそんな事例がなかったせいか、他の不良達はとんでもない事態を鼻で笑ってその首寄越せ、と勝負を挑んでいった。が、後に残ったのは無惨にも敗れた挑戦者達の屍。
 キャッチフレーズは、「ヤツの通った道には死体がある」。
 付いたあだ名は、「イカレヤロー」。
 兎に角、喧嘩に関してはやることなすこととんでもないのだ。何しろ、今では逆らう生徒もいないくらい。生徒の間では、ヤツに逆らったらナンカヤベエという野生動物並の危機察知能力がフルに働いた。
 そして、校内で敵なしとなった国生は、学校に寄り付くこともなく毎日毎日町にくり出しては喧嘩を楽しむエンジョイライフを送っていた。
 学校に頭がいないので、不良達はこれ幸いとばかりに羽根を伸ばしている。
 だが、彼らは忘れていない。あのサイコーにワルそうな顔でサイコーに楽しそうに笑いながら不良共を倒していったとんでもないイカレヤローが、自分達の頭を張っているヤツなのだと。うっかり学校の外で会った時なんかは敬礼して猛ダッシュで逃走。命は惜しいのだ。
 そして、当の本人はと言うと。
「ウケケケケケッ。オラオラオラ、ケンカしよーぜ!」
 不良達を恐怖のドン底に陥れたことなど露知らず、今日も今日とて喧嘩三昧。因みに、私服だ。
「誰かケンカやるヤツいねーのかよ!」
 しかし、悪名は校内だけに留まらず、校外――この町にも轟いていた。近隣の高校は知っている。
「ヤバソーなヤツ 見付けたら マジ逃げろ」
 とは、伊枯田高校の標語大会で最優秀賞に輝いた、とある不良が恐怖に支配されて詠んだ一句である。とてもではないが標語とは言いにくい作品なのに、よりにもよって最優秀賞に輝いたことからも国生という人物のヤバさは窺える。
 そもそも、普通の人はウケケケケケッ、と笑わない。
「ウッヒャヒャヒャヒャッ!いたあぁぁあああ!」
「ギィヤアァアアアッ!みぃいつかったああぁぁああ!」
「うわ、ヤベ、逃げろぉおおっ!!」
「あ、足が動かねえ………」
「バカッ!!死にたいのか!!」
「アアァァアアアッ!!イカレヤローが、もうすぐそこまで来てるうぅぅぅっ」
「なんだなんだ、にげるのか?………わかった!まずは、鬼ごっこでショーブなんだな?よし、まあぁてえぇっ!ケタケタケタケタッ」
「へんな勘違いしてらっしゃるうぅぅっ」
「助けてーっ!」
 国生は、とても嬉しそうに猛スピードで逃げまくる不良を追いかけた。因みに、伊枯田の生徒だ。
 不良というだけで足は速かった。が、国生の足の速さは最早人間離れしていた。喧嘩のために鍛えられた足には、喧嘩だけを鍛えた不良も叶わなかった。
 逃走劇虚しく、
「ぐふぉっ」
「友よぉぉっ」
 一人が捕まり、ぐーで後頭部を殴られ意識を失った。
「げふぉぉっ」
「く………っ、成仏しろおぉぉっ」
 一人はこけて、踏み潰されて昇天した。
「がばあぁぁぁっ」
「お前らあぁぁっ」
 一人は追い抜かれたかと思ったら、顔面に蹴りを食らって倒れた。
 そうやって、一人また一人と屍が増えていった。
 けれど、未だ命辛々逃げる不良達は決して「敵はとる、任せろ!」なんて言わなかった。アレには勝てない。マトモに対峙するだけで死ぬ。そんなバカな真似をするくらいなら、死ぬ気で逃げる。
 そんな不良達の死に物狂いの逃走も知らず、国生はサイキョーに恐ろしい顔で笑いながら追い掛けていた。
「不良王になる!」
 握り拳を天に突き、宣言しながら。
「なんだそりゃああぁぁっ」
「もう勝手になってください!」
「アンタが不良王だよ!」
「てゆーか不良王ってなんだ!?」
「バカなの!?アイツバカなの!?」
「ウキャキャキャッ、まぁあてえぇええっ!」
「ギィヤアァアアアッ、来んな!」
 今日も大きな夢のために、国生は走る(追い掛ける)。
 この町は、平和です(多分)。
     
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