狭間の話〜火炎〜
5,000hitキリリクです。
たこ様からご指名頂きました!
紫黒で甘々とのことでした。
なっているかどうかは聞かないであげてください。



 火影貴国は砂漠の国だ。領地は公爵が治め、六つの州を公爵と五部族の部族長が治める。阿州、参州、工州、陳州、本州、そして赤心である。
 それぞれの州を部族長と公爵が治め、部族長は政務を公爵に直接報告し、公爵は有事の際には直接治める。阿州は夜華部族、参州は峯華部族、工州は睿華部族、陳州は杏華部族、本州は烈華部族、赤心は都ということもあり公爵の直轄地である。
 宗谷とスウが北の関門陳州に到着するまで、後一日二日かと思われた。陳州の関門では接待も受け、その上眞凰国王の代わりに視察するという意味合いも込められているため、逗留も長くなるだろうと見られていた。
 陳州の関門の市場は活気があり、水や食べ物の不足もあまりないと言う。それもそうだ。赤心は南にあり、港と宮殿が近く貿易で栄えているようなものだ。赤心から北へ行くには必ずと言っていいほど陳州を通り、関門を通ると言うことは必然的に市場にも寄る。周りを砂漠に囲まれているからこそ、休憩には持って来いな場所だ。
 砂漠と火山の国だが、南は貿易、北は行商でこの国は成り立っている。
 それなのに、ああだのに、後一日二日で着くと言うのに、未だ看病という名目で宗谷をベッドに引き込むスウを前にして、ここ最近起きたら羞恥プレイ紛いの視線を集める宗谷はううむと気難しげに唸って、秀麗な眉目を顰めた。集められた眉と眉の間にはサーフィンでも出来そうな波の様な皺があり、眼前で眼鏡を取り払って精悍な顔立ちを見せる男に頭を抱えた。閉じられた瞳は何時も自分が見ることが出来ないもので、滅多に拝見出来ないその顔立ちを拝めたことは喜ぶべきか否か。
 否、それ以前の問題だ。
「ん、んー……」
 唸る。何かを探すように手は寝台の上を弄り、布団を掴むも何か違ったらしく、眉間の皺を濃くしてそれを探している。
 その手が宗谷の正座した太股に触れると、スウは安心したように表情を朗らかに和らげた。眉間に皺を集めた姿も精悍で好ましいが、そうではない姿も精悍だ。端正で精悍な人は何をしても不細工には見えないのだろうか。狡いと思うのは、自分が狡いからだろうか。
「んー……。………あー………んん?……………起きていたのか、宗谷」
「はい」
 そりゃあもうバッチリと。
 スウは気だるい体を起こし、朝だから起こさないわけにはいかなくて、けれどそれを簡単に認めるのは嫌なのかまだ寝台に座ったままだ。暫く眠気と格闘して、ギリギリになったら仕事に行くのだろう。
 何時もは、宗谷の方が後に起きるので見れなかった諸々が、早起きしただけで見れたと言うのは非常にどうでもよかった。ここまで言っといて何だが、起こしてくれれば良かったのにとか言いながら夢と現を彷徨うのなんか、本当どうでもいい。
「スウさん」
「……………あ?」
 頭はまだ眠っており、返事に間があっただけでなく、如何にも不機嫌ですと言った返事だった。だが、これもそれも全部寝起きだからだ。と言うことにして、宗谷は腹を括った。
「俺、今日から地面で寝ます」
「…………………………………………………………は?何で」
「男としての沽券と羞恥心のためです」
 毎朝毎朝起きたら同じ天幕の人達に微笑ましい顔で見られているなんて、宗谷は耐えられなかった。今だって、宗谷は早く起きたと言うのに天幕の中からは絶えず視線が送り続けられている。
「駄目だ」
 今度は早かった。否、今のですっかり目が覚めたと言ったところか。何れにしろ、即断即決の考える時間すら要していない。
 だが、それだけでは、宗谷は引き下がらなかった。寧ろ、豊山犬の様にしぶとく、且つ、しつこく食い付いた。
「スウさんに許可は求めていません。俺は、宣言しているんです。何が何でも、今日からは地面で寝ます。それが駄目なら、藁でも敷きます」
「却下だ却下。ったく……。朝から真面目くさって何を言うかと思ったら」
「何でスウさんに却下されないといけないんですか?俺のすることに口出ししないでください!」
「いーや。するね。大体なあ、お前が俺の上に落ちた日から決まっていることなんだよ。今更変わらないっつーの」
「どんな理屈ですか!」
「屁理屈だよ」
「馬鹿!?ねえ、アンタ、馬鹿!?」
 最初の冷静さは何処、最早子供の喧嘩と化した二人の口論に同じ天幕の人達も呆れた。が、やはり微笑ましい顔である。
「理由は何ですか!理由!」
「お前と寝たいからだよ!」
「なっ、変態親父か!」
「まだ花の二百歳だよ!」
「十分俺から見れば親父ですよ!この変態親父!ていうか、突っ込むところ違うだろ!」
「ああ!?変態じゃねえよ!」
「おせえよ!」
 くだらねー。と、状況を静かに見守る傍観者達は思った。夫婦喧嘩は犬も食わないと言うが、これも食わないだろう。
 宗谷の宣言から冷静だった二人に何時の間にか火が着き、子供の喧嘩や夫婦喧嘩も凌ぐ程馬鹿馬鹿しい喧嘩になっていることに、早く気が付けばいいのに。もうすぐ仕事に行く時間だし、後一日二日で関門に到着するのだ。今日は、きっと馬車馬の如くこき使われるのに、こんなところで無駄に使う体力があるなら仕事を押し付けようか。
 と、傍観者達もそろそろ顛末の見えない喧嘩に飽きて来た時。
「俺は、お前と寝たいんだよ」
 スウは声を努めて落ち着け、真剣な目を宗谷に向けた。眠気も吹っ飛び、その目に捕らわれた宗谷の胸が歪な音をたてた。
 始めからこうしていればいいものを。けれど、そうではないから、宗谷はスウと今まで一緒に寝ていたのかもしれない。なんて、とてもではないが本人には言えない。
「宗谷」
「……変態」
「何とでも」
 百聞は一見に如かず。されど、一回聞いても何回聞いても、変態にしか思えない。と、宗谷は思っても渋々承諾した。どうせ後一日二日の我慢だ。関門に着いたら、個別に部屋が与えられるだろう。きっと、多分。いや、そう信じたい。
「いいか?」
 そう訊ねて来たスウが白々しくて、意固地になって宗谷は背中を向けた。気分は誘導尋問をされている、冤罪を着せられた罪人の気分だ。
 首を横に振らず、それが何を指しているか、察しのいいスウが気付かない筈が無かった。宗谷の頭をくしゃっと撫でて、有難う、と耳元で囁き、スウはほくそ笑んだ。
「なっ、ば…っ、は!?」
 余りにも唐突だったので、驚いて振り返った宗谷の顔は、李の様に甘酸っぱく赤く染まっていた。
     
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