その2
「秋音」
 ピクリ。意識だけがこっちに向けられる。
 よし、今だ。
「あのさ…」
「別れよう」
「へ?」
 今、何て?
「お、俺は…。お、お前がだだだ大っ嫌いで、だから、別れよう」
「あ…き、と?」
 視界がぼやける。前が見えず、ぼんやりとする。今、何て言われたのか。理解したくなかった。
「おお、お前なんか、大嫌いっ。嫌い……………嫌い、だから……」
 秋音はそれだけ言うと読んでいた雑誌をポイとソファーに投げ、リビングから出て寝室に向かう。荷物でも纏めるのか。
 しかし、予想とは違って、寝室へのドアの前で佇む。そして、くるりとこちらを向いてビシッと指先をこちらに差した。
「き、きょ、今日は四月二日の午後だからな!」
「………は?」
「だ、だだだからっ。嫌いだから…」
「……ふーぅん?」
 分かった。つまり、これは菊ちゃんにでも入れ知恵されたんだろう。余計なことを。
「あーあぁ。俺、傷付いたなぁ」
「……お、おい」
「すーんごく傷付いちゃった」
 棒読みで肩を竦めてみせる。表情はこの後をうっすらと感じているのか、強ばっていた。じゃあ、ご期待に添わないと。
「秋音、逃げようって考えたら……どうなると思う?」
 勿論、逃がさないけど。



 だけど、秋音の言葉に傷付いたってのは、嘘じゃないよ。言わないけど。
     
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