王には継室蕭氏と数多の妃嬪がおり、迎えた妃嬪の数は数えられないが、廃位した妃嬪とその子供達の数も他国に比べれば類を見ない夥しい数である。更に亡くなった史和王后の四人の公子と継室の四人の公子が互いに反目し、太子を冊封したというのに残り七人の公子は今だ王位を虎視眈々と狙っていたのだった。
 更に王には兄弟が十人いた。庶子も入れると六十二、嫡出の公主も入れると六十八人、庶出の公主も入れると七十二人の兄弟がいた。ここまで兄弟がいるのなら自分一人いなくなったところでどうにもならないと思っていたが、先の王であり実兄には子供がいなかった。三男だったにも関わらず、兄王に太弟に冊立されてしまったために彼の未来も奪われてしまった。
 太弟に冊封されてから兄公子に命を狙われる日々が続き、弟や他の公子や公主からは媚びを売られたり敵対したり。兎に角心休まる日は一日もなく、鬱々としながら次期国王の勤めを果たすために日々奔走した。
 それは、王座を与えられた後も変わらなかった。数多の妃嬪と王妃はいがみ合い、支え纏まって王に仕えるどころか生き残りをかけて自分の息子を王にするように耳元で囁く。おかげで気が休まる日は一日もなかった。
 十になった時に与えられた一番目の妻史和王后は十六になるまでに四人の大君を残して、早くにこの世を去った。彼女を愛していたとは言い難かったし、彼女が生きている間も諍いが絶えなかった。嫉妬と気性が激しい人で、自分とは反りがあわなかった。彼女が夭逝した時も喜べなかったが悲しめず、悲しみに暮れる周囲と喜び継室へ据えろと囁く妃嬪を他人のような気持ちで眺めていることしか出来なかった。
 いい夫とも、いい父とも言えなかったと自覚している。子供達は他人の子のように思えて、実際何十人かは他人の子だと報告があったし、愛情を注げず愛してもいなかった。血を分けた子だと言うのに、だ。
 これらの感情は全て、絶望から来るかもしれない。愛したたった一人の人、その人の夫として生きることも出来ず逢瀬を重ねるだけで安心は出来なかった。引き離された直後彼女は玉座に着き、夫を迎えてすぐに懐妊した。
 正直、裏切られた気持ちだった。自分のことは棚に上げて、生涯の想い人と誓ったのにと心で彼女を詰った。彼女にとっては男は自分一人ではなかったのだと悲嘆し、彼女を想っては重ねた年月に涙を流して責めた。目前にいれば掴みかかり、思う存分気持ちをぶつけられたのにと心に憎しみをたぎらせた。
 だけど、彼女のいない年を重ね数えるごとに気付く。そもそも妻子を持ちながら彼女を愛した自分こそが、妻も彼女も裏切っていたのではないか。彼女に全てを賭けられなかった自分がこの事態を招いたのではないか。彼女を想いながら彼女以外の女と体を重ねた。義務でもそうでなくとも、彼女を裏切ったのは自分からだ。だから彼女を詰れない。彼女が玉座へと座らせられる時に引き留め、共に逃げようと何もかもを捨てて走れなかったのに詰れるはずがない。
 そして、変わらない想いも自覚した。幾年が過ぎようと、何人と体を重ね合わせ心を寄せられようとも、彼女への愛しているという想いは変わらない。彼女を思い出すたびに愛しさを確かめ、重ねた年月を思い心を休めた。
 しかし、そんな孤独の日々は唐突に幕を下ろす。
 大殿の房室、貴族や官吏にしては些か華美なパジチョゴリに身を包んだ男に視線を投げかける。自分にまっすぐ毅然と逸らされずに合わさる視線は、疚しいところもないのに心が合わせることを拒む。
「お願いです、兄上」
「余の一存ではどうにもならん」
 どうしてこうなってしまったのだろう。数多もいる兄弟の中で自分は父王の子ではないと、あまりにも兄弟達に似ても似つかなかったために信じて疑わなかったが。何もこんなところだけ、しかもこの時期に似ていると証明しなくてもいいのに。
 兄の素行不良で、本来王位に着くはずがなかった自分が着いてしまった。三男でいいなら、四男でもいいではないかと弟を推したが兄王は頑固一徹自分を太弟に据えた。
「兄上が愛した方の子ではありますが、私にとってはお慕い申し上げている方なのです」
「しかし、な。前例は数多くあれど、本人達の意思でどうにかなるようなものなら、余の許可など要らぬであろう?蓬莱、分を弁えよ」
「兄上…」
 下げられた眉尻から視線を外す。言外に帰れと告げ、話すことはないと冷徹なまでに突き放した。
 弟公子が今日会いに来たのは結婚を認めさせるためだ。本来なら、夫人も迎えていない弟公子が婚姻するなんて願ってもないことであり、盛大な式を挙げるところだ。残念なことに、今、朝廷は荒れているため王室の威厳を示すにはもってこいだ。
 但し、相手がまともな人物に限る。
「相手が慶雲の世子だなんて、認められると思ってないだろう。蓬莱」
     
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