1.January
「チカちゃん、おはよ」
 精悍で惚れ惚れする、もしも私が女だったらセフレでも何でも抱かれたい顔。ううん。そんな関係じゃなくて、どんな関係でも側にいたい。
 こう思うのは、きっと中身も男前で信念を貫く性格だと知っているからかもしれない。と、ちょっとババくさく物思いに耽ってみた。
「菊。はよ」
 珍しく朝早い時間に起きているのに、リビングで悠々と寛いでいる男前は淡々とした口調でおはようを言ってくれた。顔はこっちを向いてすぐに戻されてしまったけど、新聞に嫉妬するほど熱い時期は過ぎ去ってしまった。
 昔は私に視線がないと嫌で癇癪をよく起こして、それを宥めもしないで放っとく彼は冷たかった。心配もしないし、安心させることもしない。かといって、怒ったり悲しんだりもしなかった。
 彼の中に私は存在するのに、空気みたいに扱われることもないのに、彼は全く私を相手にしなかった。冷たいのでも横柄でもなく、彼は興味の欠片も示さなかった。
 そんな彼に私は、はたと悟った。彼は興味がないのだ。悲しくもないし、ムカつくわけでもないのは無駄なことと思っているから。彼は視線ではなく、全身で私を見てくれている。一生懸命、いっそ健気なくらいに。
「チカちゃん。今日はどうする?」
「どうする…て?」
「まったく…。今日は元旦よ。恋人達は外に出て、いちゃつくのよ?」
「人混みが面倒」
 ……イケず。
 バッサリきらなくてもいいじゃない。チカちゃん見せびらかしたいんだから、その位察してよね。こんなところが、愛情が薄いとか言われる原因なのよ。
 でも、そんなところに拘ってたらチカちゃんの相手なんてやってられないわ。
 チカちゃんの隣に座って、綺麗に拭かれたガラステーブルの上のリモコンでテレビの電源を入れた。元旦なんて特番しかやってないのが普通だから、あんまり期待してなかったけど。やっぱり何にもない。
「菊」
「なあに、チカちゃん」
 チカちゃんに無視されちゃったから、大人しくチャンネルを次々と変えていたら、珍しくチカちゃんが私を呼ぶじゃない。これは満面の笑顔で振り向いちゃうに決まってるじゃないの!
「おせちと雑煮…と、とそ…作った」
「……そう」
 チカちゃんは私と違って手先が超器用。だけど、料理とかさせたら凝りに凝っちゃうのよ。元々アクセ作ってるから、芸術とかに興味があるんだろうけけど、凝り方がもう…パネエのよ。これ、板前とか旅館がやる飾りじゃないのって言いたくなるくらい、まず飾りから凝るし。まあ、美味しいから任せちゃうんだけどね。
 比べて私が出来ることと言えば、商売下手でアクセ作りにしか興味ないチカちゃんの代わりにアクセを売ること。掃除、洗濯、洗い物、お布団干し……うん、何とか出来てるわよ?
 その代わり、チカちゃんがお料理頑張ってくれちゃうわけよ?んもう、カッコいいったらありゃしない。
「お夕飯にゆっくり食べましょうね」
「……不味くても知らねえぞ」
 私の反応が相当嬉しかったのかしらねえ。ぷいってそっぽを向いて、それなのに耳まで真っ赤にしてあんまりにも可愛い姿を見せてくれるから。滅多に見れないチカちゃんの照れた姿に、口元が知らず歪むのが止められない。
 チカちゃんの真っ赤っかな耳に唇を寄せて、そっと息を吐きながら囁く。今からチカちゃんの表情が豹変することが、楽しみで仕方ない。
「不味かったら、愛の鞭をやるよ」
 あらやだ。言ってから恥ずかしいわ。
 …けど、チカちゃんの顔を見たら満足しちゃった。真っ赤?そんなの比じゃないわ。真紅も素通りして、黒が近いんじゃないかってくらい赤く染まったチカちゃんの顔。
「やっぱ止めた」
「………は?」
「あまぁい、飴をあげるわ。……鞭をちょうだいって泣いて懇願するまで、只管甘やかしてやるよ」
 あ、自分で言ってていい案に思えてきた。チカの顔は真っ赤だし、流石俺が淫乱に育てた甲斐があるってもんだ。見た目は一八〇近くある男前だって言うのに、開けたら吃驚。どんな阿婆擦れや淫乱も裸足で逃げ出す俺についてこれるマゾヒスト。本人否定しまくっているが、それが認めているようなもんだと分からないかね。
「出た…菊陽」
「何だ?真っ昼間からやりたいのか」
「いいえ。そんなことは…て、ちょい待て…コラ!」
 俺もチカもこんな年だからか、初日の出を見るような若さもない。かといって、全然行事に参加しないわけじゃない。自分達に都合がいいのだけ参加するのは日本人の特権だろ。
 そう、都合がいいのだけは。
「晦馬も熾人もいい男連れてきたし、今度公開するか。あ、それとも乱交希望か」
「な……っ。このドアホ!」
「ほう……公開の後に乱交か。淫乱」
「〜〜〜ッ、早く戻りやがれ半端カマが!」
「おら、姫始めるぞ」
「…もうやだ、二重人格のカマ野郎なんて………」

     
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