31.December
「んー…」
まぶしい。よく分かんないまぶしさから、目を閉じようとしたけど出来なかった。っていうより、すでに閉じてたみたいで。だけどまぶしいから、光から逃げようとする。
逃げ場がなくて、だけどすぐあったかいものに気づいて、こっちならまぶしくないかもと思って体を寄せた。ほんわりじわじわあったかくて、あったかさに抱きしめられてるみたいだったけど、残念ながらあったかいのは体に巻きついてない。
少しでもあったかくなりたくて、あったかさに頭をすりすりした。うーん、あったかい。あったかいのはおれの体温と同じくらいにあったかくて、まるでおれ専用に作られたんじゃないかって思うほど。
あったかいのをきつんま(満喫)していると、あったかいのが動いた。むー動くなよ。もぞもぞうごいたのが嫌で、あったかいのにどっかに行ってほしくなくって、あったかいものに手を回した。だけどまだもぞもぞ動くから、ぎゅーって腕の力を強くしてしめつけた。
ダメ。絶対逃がさない。どこも行っちゃダメだ。そしたらもぞもぞは動かなくなって、頭をあったかいのがなでた。気持ちいい。
あんまりにも気持ちよくて、おれは現実からさよならをした。
「おやすみ、笠間」
もう少し、寝てて。
「んー…」
目を開けた。目が覚めたことに気づくのはすぐで、しばらくボーッとする。頭は寝起きだから働きたくないと、今だにねぼすけでちっとも動いてはくれない。
十分くらい、たったかな。ぼんやりとようやく動いてくれた頭で、とっくに朝だということに気づいた。
詳しい時間が知りたくて、ケータイを見ればいいってことに気づいて手探りでケータイを探す。けど、ケータイは見つからない。シーツの感触はあるのに。
「んんー…?」
なんでだ?
昨日どこに置いたんだっけって、拒否権を使って働きたくないってワガママを言う頭を怒ってむりやり動かす。
「……あ」
ぐるぐるぐる。考えて考えて、やっと思い出した。ライトスタンドに置いたんだった。いつもここにおいているのに、いつも忘れる。やっぱ朝はダメだな。
ケータイを開いて時間を確認すると、十四時を回ったところだった。こんな遅い時間に起きたことはなくて、最初は信じられなくてマジ?って疑った。もう一度見ても、やっぱり同じ時間だから本当だって分かって肩から力がぬけた。こんな時間まで寝てたの初めてだ。
「よく寝てたな」
少し落ち込んでたおれに、ありえないことに声が聞こえた。え、ここおれの家だよね?
やっべ、ドロボーかよ。ちょうこえー。
ビクビクしながら、おれは声のしたほうを見た。ら、
「……………か、ら……………………………し…………ま?」
「俺の顔も忘れたか、笠間」
え、なんで。なんでおれの家に辛島が?え、つか、おれの家ちょう汚いよ?
ヤバい。慌てて体を起こして、部屋を見回したら、予想外にキレイだった。あれ?
「……ッ、か、辛島!」
「はい、思い出した?」
鼻をつままれて、若干鼻声になりながら辛島を呼ぶ。それでちょっと頭が動いて、色んなことを思い出す。
「お、思い出しました!」
「よし」
そっか。そっかそっか。辛島と昨日がんばって掃除して、キレイにしたついでにあの汚い部屋も見られたんだ。
そして、
「へへ」
辛島の左耳に光る物を見つけて、思わず笑ってしまう。金色の控えめに光るそれは葉っぱの形をしていて、それがおれの耳にもあることも思い出してまた笑う。赤色の色違いで、辛島とおそろい。
昨日菊ちゃんのお店で買ったんだよな。
「笠間。顔が変になってる」
「辛島はそれ以上だよ」
「えーそうかー?」
これで何度目かな。
「ふふん」
もう起きてからずっと繰り返された行動に辛島はため息をついて、でもバカにしてるとかあきれたとかじゃなくてしょうがねえなって顔をするから。おれもやめられないんだ。あきれられてもおかしくないから、どうせならそうすればいいのに、だから調子のっちゃうんだ。
でも、そんなふうにされたら落ち込む自信がある。そうしない辛島だから、今でもおれをこうやってあったかくしてくれるんだろう。
辛島を見ては鏡を見て、右耳に光るピアスが嬉しくなる。
「笠間」
「んんー?」
「そろそろ、飯にしようか」
「ん。……うふふ」
辛島がビミョーな顔してる。まあ、女の子ぽいキモい笑い方しちゃったから当然と言えば当然なんだけど。
「あ、夜ってそば食べるんだろ?」
朝ご飯とも言えない、朝昼ご飯をもそもそと食べながら。辛島がさらっと作ってくれたのは、ご飯とみそ汁とたまごやき、焼き魚。因みに焼き魚は骨があるけど、辛島は大人なら骨をとるのも普通だって言うから。がんばる。
「ああ、細く長く生きられるようにって、毎年大晦日に食べる習慣があるんだよ」
「へー。しゅーかん?」
「決まりみたいなもん」
「じゃ、食べような」
「ああ、食いすぎるなよ」
「全部食ってやる!」
宣言通り、辛島が作ってくれた年越しそばってゆーのを残さず食べて。おすしとかさしみとか、辛島が買ってきてくれたのを食べた。
「本当に全部食べるなんて…バカだろ」
「うる、せ…げぷ……」
腹、パンクするかと思った。
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