※ぬるいですがモブ×レンの性描写があります。苦手な方はお戻りください。



他に誰もいない放課後の教室で、レンは複数の男達に周りを囲まれていた。呼び出しを食らい、しかし自分には関係がないとそれを無視して自室へ行こうとしていたところを無理矢理連れてこられたのだ。全く、どうして自分がこんなくだらないことに付き合わなければいけないのか。内心溜息をつかずにはいられなかった。

同姓から妬まれる事には慣れている。異性の場合、自分に興味のないものは知らん顔をして極力関わらないようにしている為に問題が起きることはあまりない。しかし同姓となると、因縁をつけられ、痛い目に遭わせてやると言って集団で何かをしようとしてくるのだから困ったものだ。他人から嫉妬を買う原因は、生まれ持った容姿、財力、才能なのだからどうしようもないというのに、そんなことを訴えたところで聞き入れられるはずがない。彼らはレンのすべてが気に入らないのだ。話して理解してくれるような相手であればこんな面倒なことはしない。

「……それで、何の用かな」

この状況を面倒だと思っていることを少しも隠そうとせず言い放ったレンに、男達は忌々しげに舌打ちをする。彼らの誰一人見覚えのない顔だった。大して実力のない者達なのだろう。だからこそ他人を妬むなどという愚行に出るのだ。男達の反感を買うとわかっていても、レンは呆れたように鼻で笑うのを抑えられなかった。

「テメェ、馬鹿にするのも程々にしておけよ……」
「馬鹿にされたくないんだったらこういうことをするのをやめてほしいね。勝手に他人を妬んで逆恨みをするだなんて、馬鹿のすることだろ?」
「なんだと……!」

一人の男が腕を振り下ろしてくるが、難なくそれを避ける。顔だろうが体だろうが、傷なんてつけられたらたまったものではない。アイドルとして失格だ。そんなことは男達だってわかっているはずなのに、わざわざ騒ぎを起こしたがるなんてどうかしている。どうやら自分はそれほどまでに気に食わないことをしているらしい。自覚がないのだから、いくら咎められたところで直しようがないのだが。

「何をしても無駄だよ。騒動を起こせば君たちは退学を免れないし、オレは君たちの言うことを聞くつもりもない」
「俺たちだってお前が素直に言うことを聞くなんて思ってないさ。かと言って暴力もできない。なら、やることは一つだろ?」
「………」

下卑た笑みを浮かべる男達がしようとしていることなど、考えなくたってわかる。人間の発想というものはいかにも単純だ。現に今までこの男達の考えるようなことを仕掛けてきた者の数は数え切れないほどにいた。レンは容姿が綺麗に整っている上に、スタイルも本人が自負している程に良く、また髪も長い。性的対象とされることは腹立たしいことに幼少期からあった為に、今更驚きも怒りもしなかった。

冷静に黙ったまま男達を見つめて、さてどうするべきか、と思考を巡らせる。相手が一人であれば逃げることも返り討ちにすることも出来るけれど、複数となると圧倒的に不利だ。予め計画していたのだろう、この教室は一番端にあり、こんな時間まで教室に残っている生徒はきっといない。助けを求めたところで無意味だ。寧ろそれは男達を喜ばせることになりかねない。

(……まあ、別に構わないんだけどね。初めてじゃないし)

恐らく人より経験は積んでいる。合意でも、そうでなくとも。下手に問題を起こして処分を食らうくらいなら、たかが体を弄ばれるくらい痛くもなんともない。もうすっかり慣れてしまって何の感情も湧いてこないのは、良いことなのか悪いことなのか。抵抗をしたら相手が付け上がることを知っている。大人しくされるがままでいるのが一番楽だ。

「へえ、抵抗しないのか。お前ってそっち側なの?」
「人のことは言えないんじゃないのかい?普通は男相手に、なんて考えないと思うけどね」
「……どこまでもむかつく奴だな、お前」
「それはどうも」

このまま話していたところで鬱憤が溜まるだけだ。そう判断したらしい男達は口を閉ざした。乱暴にレンのネクタイを抜き取り、壁に背中を押し付ける。万が一抵抗されては困ると、解いたネクタイで両手を一括りにして後ろで縛った。痕は残さないでよ、とこの状況に動揺も怯えもせずに依然として言い渡すレンに調子が狂いそうになりながらも、確かに証拠は残すべきではないと出来る限り緩めに巻きつける。普段からほとんど釦の留められていないシャツを広げ、健康な色をした手触りのよい肌に触れる。

「……っ」

経験を重ねているとは言え、無遠慮に体を弄られる不快感と嫌悪感にはどうも慣れない。けれどそのことを表に出すのはどうしても嫌だと、声を漏らさないよう歯を食いしばり努めて普段通りの表情を保った。

(……早く終わらないかな)

いっそ慣らすことさえしなくても良い。ただ男達の快楽の為だけに体を使われて構わない。一秒でも早く行為が終わることを願わずにはいられなかった。

終わってからは、何事もなかったかのように振舞えばいい。今まで何度だってそうしてきた。感情を押し殺すことは得意だ。現に今まで誰かに気付かれたことはない。
見知らぬ男達に犯されて悲しいだなんて泣き入るような純情さは今更持ち合わせていなかったし、誰かにこのことを相談するような弱さ(或いは勇気というのかもしれない)も持っていなかった。こんなものは悪い夢だと思えば良い話だ。次の日目が覚めたら全て忘れてしまえば、無かったことにしてしまえば。男達が口外しない限り、誰にも伝わることはなく、時が経つに連れてそれが本当に夢であったかのようになる日が来る。

(こんなことイッチーやおチビちゃんに知られたら、きっと嫌われるだろうね)

このことは、どうしても彼らとその同室者達には知られたくなかった。学園長に知られて何らかの処分を受けることよりも、兄に知られて更に実家との溝が深まることよりも、普段自分が慕っている彼らに蔑まれることが一番怖い。だから、何があっても自分は隠し通すだろう。

(……ずるいよね、こんなのって)

自分は酷く汚れているのに、嫌われたくないが為にそのことを隠して、友人という関係を続ける。皆と普通に話していても、ふと居た堪れない気持ちになることは少なくなかった。本当に自分はこの場にいても良いのだろうか、相応しくないのではないだろうか、と。その度に必死に現実から目を背け、強引に自分の居場所はここだと言い聞かせてきたけれど。

「い……っ」

突如訪れた痛みに、意識が唐突に現実へと引き戻される。髪を無理矢理捕まれ、引っ張られたのだ。漸く普段とは違う反応を見せたレンに気を良くしたらしい男が満足そうに笑みを浮かべる。そしてレンの顔を己の怒張したそれの前まで持って行かせると、口を開けろと言い放った。

「噛むんじゃねえぞ」
「……はいはい」

怖いんだったらやめれば良いのに、と思いながらも大人しく言われるがままに口を開く。逆らうだけ時間の無駄だ。レンの痴態に興奮しているらしい、頭を擡げている青臭いそれに顔を歪めながら、恐る恐る口の中へと埋めていく。込み上げる嘔吐感をどうにか堪えているうちに、視界がぼやけていった。

「ん……っ、む、ぅ……」

いつだか、知らない男に仕込まれた時のことを思い出しながら口淫を施す。舌で先端を包み込むように、或いは口全体を使って吸い付くように。物にするのに大分苦労しただけあって、未だにその技術は役立っていた。大抵の男はフェラをさせることを望む。御曹司で高飛車でプライドの高そうな自分を屈服させているという優越感があるのだろう。そして散々仕込まれたそれはどんな男にだって通用する。人によって差異はあれど、感じる箇所は大体同じだ。

「随分上手いんだな……」
「ふ、…ぁ……ん、んっ」

口の中で質量を増すそれが零れ落ちそうになり、必死に落とさないようにと頬張る。
レンとしては文句をつけられては面倒だと思ってのことだったのだが、男達は都合の良い解釈をしたらしい。余程フェラをするのが好きだなどという勘違いをされ内心毒づいたが、理由が何であれ相手が気を良くしてくれるならこちらとしても好都合だ。

「俺もうイきそうかも……」
「はあ?お前早すぎだろ!」
「いや、こいつまじですごいんだって」
「んぐッ……!」

耳障りな笑い声を上げながら会話を続ける男達が、喉奥へ乱暴に性器を捻じ込んでくる。苦しそうに咽るレンにはお構いなしにそのまま前後に頭を揺さぶった。射精をする寸前に口の中から勢い良く抜き取られ、顔の間近で白濁した液が吹き飛ぶ。反射的に目を閉じてすぐ、生暖かいどろりとした感触が瞼や頬、口元に伝うのを感じた。

「っ、はぁ…、げほっ、う…!」

息をつく間もなく違う男のものが捻じ込まれ、苦しさに生理的な涙が零れる。
そっちに気を取られているうちに別の男がレンのズボンに手を掛け、下着ごと下ろした。指先に予め用意してあったらしいローションを適当に数滴垂らし、固く閉ざされているそこに強引に割り込ませる。びくりと引き攣るレンの体を嘲笑うように男は指を増やし、大きく掻き回していく。

「、ぁっ……ん、ん……!」
「やっぱり後ろで感じるんだ、お前」
「だったら大して慣らさなくて良いんじゃねーの?」

最初の余裕はどこへやら、レンの意識は朦朧とし始め、ほとんど男達の言っていることも理解できていなかった。息が出来ない苦しさに、本来排泄機能しか備わっていない箇所を無理矢理こじ開けられる痛み。びくびくと脚を震わせ弱々しく頭を振るが、それは男達を余計に煽るだけだった。普段であればそんなことは容易にわかるはずだが、何も考えられない状態にある今のレンはそこまで頭が回らない。

ローションがぐちゃりと厭な音を立て滑りを良くし、指の出し入れがスムーズになる。
気分を良くした男が好き勝手に動かす度に、中がぎゅうと締まった。

「なあ、もう良いんじゃねぇの?」
「そうだな、こいつ初めてじゃないみたいだし」
「でも誰から挿れんだよ?」
「……そういや考えてなかったな」

ぐったりと壁に背を預け浅い呼吸を繰り返しているレンの横で、男達は誰が一番最初に挿入するのかということを話し始める。最初はまともに話し合っていたものの、次第に順番争いで揉め始めたらしい。一触即発の空気になりながら口論を続けている。その時間が大分長かった為に、レンはやがて平常心を取り戻し、ふとどこかへ飛ばしていた意識を取り戻した。

(……ちょっと飛んでた、のか……危なかったな……)

生まれ持ったものか、それとも経験を重ねる内にそうなったのかはわからないが、レンは快楽には大分弱い方だ。自覚もしている。理性を飛ばしてしまうと自分でもどうにかなるかわからない。ただ行為に及んでいる途中に意識が途切れ、目が覚めたら覚えの無い精液や怪我に塗れていることが昔は良くあった。記憶さえ飛んでしまうのだから厄介だ。アイドルを目指すからにはそうはいかないと、最近はどうにか制御していたはずだったのだけれど。

(……で、彼らはいつまで揉めてるのかな?)

未だに目の前で口論を繰り広げる男達をちらりと横目で見やる。まったく、放置される身にもなってほしい。早く終わればそれで良いのだから、順番なんてどうだっていいのに。どうせ挿れるのに変わりは無い。数分の差が生じるだけだ。後からの方が滑りも良いだろうし、何をそんなに揉める必要があるのかと呆れずにいられない。

すっかり調子を取り戻したレンは退屈そうに男達のくだらない揉め事を聞いていた。

「だから!俺が最初にこいつをレイプしようって言ったんだから、俺が最初だろ!」
「ハア!?協力してやったのは誰だと思ってんだよ!お前一人じゃ何も出来なかっただろうが!」

どうやらほとんど叫びに近い喧嘩にまで発展しているらしい。このままだと殴り合いでもするのではないだろうか。今の内に自分が逃げてもきっと男達は気が付かないだろう。後から面倒なことになるのは目に見えているので逃げ出したりはしないが。それに、何より体に力が入らない。試しに力を込めてみても指先が僅かに動くだけだった。
手首に結び付けられたネクタイはもうほとんど解けており、数回腕を揺すっただけで簡単に地面へと落ちていった。うまく力の入らない手でネクタイを拾い上げようとするが、レンはそこで初めて自分の手が小刻みに震えていることに気付く。

(……なんで……)

慌ててもう片方の手で震えを止めようとしたけれど、その手さえも弱々しく震えていた。こんなのは慣れていたはずで、初めてのことじゃないのに。昔だったらこんなことはなかった。例えそれが強姦であっても、結局自分も気持ち良いのだから悪いことじゃないと、怯えることも悲しむこともなかった筈が、どうして。らしくない自分の姿にレンは酷く動揺していた。

そう、動揺していたのだ。
だから、気が付かなかった。

自分達のいる教室の扉の前に佇んでいた気配に。


「テメェら、何してやがんだ……?」

低くドスの聞いた声は、良く聞き慣れたものだった。それはレンにとっては、というだけで、先程まで怒鳴りあっていた男達にとっては、たまに見かける程度の遠い存在だっただろう。

現役アイドルであり、また学園長に最も近い存在である一人。そしてSクラスの担任である――日向龍也。彼は視線だけで人を殺めることさえ出来そうな、恐ろしい剣幕をして立っていた。

「……リューヤさん」
「神宮寺。話は後でたっぷり聞かせてもらうからな。
とりあえず……お前ら、どうなるかわかってんだろうな?」

パキ、と骨を鳴らす音が静まり返った室内に響く。それから男達の断末魔のような叫びと悲鳴が聞こえたのはすぐだった。

◇◆◇

そのままの姿で寮に返すわけには行かないと龍也の部屋へ連れてこられたレンは、不貞腐れたようにそっぽを向いていた。早く帰らせてくれと無言で訴えているのがひしひしと伝わってくる。それでも教師として許すわけにはいかないと、頑なにレンから事情を聞きだそうとしていた。

「だから、オレの気まぐれだって言ってるじゃない」
「気まぐれで他人とあんなことするわけねーだろ!お前の周りにはいっつも女子がいんだろうがよ」
「別にセックスはレディとじゃなくたって出来るよ。寧ろ男の方が面倒がないし、都合が良い」
「はあ……。あくまで本当のことは言わねぇつもりだな」

レンが嘘をついているのは目に見えている。いくら他人は誤魔化せても、自分の目は誤魔化せない。Sクラスの担任として生徒一人一人と向き合うように努力をしてきたのだ。そう簡単に騙されては堪ったものではない。そしてだからこそ、目の前の男が簡単に口を割るような男ではないということもわかっていた。

「もうわかったでしょ、リューヤさん。何聞いたって無駄だよ」
「あのなあ……。あー、だったらお前の周りの奴に聞くけど、良いか?」

一か八か。卑怯な手だとは思いつつも脅すように告げると、レンの顔色が変わった。ぴたりと動きを止め、怯えたようにゆっくりと龍也の目を見る。当然そんなことをするつもりなどなかったが、こうでも言わない限りレンは絶対に本当のことを話さないだろうと思っての作戦だった。どうやら効果は覿面らしい。龍也に真剣な表情で見つめ返されると、レンはぐっと息を詰まらせた。

「……駄目だよ。イッチー達は何も関係無い」
「気まぐれでやってることなら、誰に知られたって困らないだろうが」
「っそれは……」
「本当のこと。話せるな、神宮寺」

逃がしはしない。龍也がそう思っているのが全身から伝わってくる。これは降参せざるを得ないと、暫くの沈黙の後レンは困ったように肩を竦めて溜息を吐いた。どうやら自分は担任のことを少し甘く見すぎていたようだ。他の教師と同じように上手くやりこめるかと思いきや、とんだ誤算だった。

レンは仕方なくぽつりと今回の経緯を話し始める。そして今までにあった過去のことも。ある日一人の男に騙され、複数の男達に犯されたこと。それ以降自分の身体がどうでもよくなり、適当にいろんな男と寝ていたこと。和姦も強姦も含め、何度も経験してきたこと。だから今回のも大した事は無いことだから、忘れてほしい、ということ。

龍也は言葉が出ないのか、それとも話しやすいようにと気を遣ったのか、口を挟むことなく最後まで黙って真剣に耳を傾けていた。

しかし。

「……っのバカヤローが!」
「〜〜ッ!?」

話し終えたのとほぼ同時に、レンの頭に激痛が走る。拳骨をぶち込まれたのだ。当然手加減はしたのだろうが、何せ龍也はアクション映画でも活躍している俳優なのだから、その力は莫大だ。油断していた所に降りかかったあまりの痛みに涙が滲み、レンは恨めしげに龍也を睨み上げた。

「なんつー目してやがんだこのガキ」
「いきなり殴るなんて、教師としてどうなんだい、リューヤさん……」
「ああ?お前が悪いんだろ」
「……オレだってそう思ってるよ。誰彼構わず寝て、そのことを隠して、友達面してるなんて最低だってさ。でも……」
「そうじゃねぇ。だからテメェは馬鹿だって言ってんだ」

レンの言葉を遮って話し始める龍也は、どこか怒っているように見えた。その理由がわからずにレンは首を傾げる。軽蔑されるか、呆れられるかのどちらかはされてもおかしい事ではないと思っていたが、怒る必要がどこにあるのかはわからない。教師だから、だろうか。生徒が不純な行為をしていることが知られれば、確かに学園の名に傷が付く。そのことに気が付いたレンは慌てて言葉を付け足した。

「あ、でも、大丈夫だよ。ここに入ってからは学園外の人間とはしてないから、バレることはないさ。相手が誰かに言い触らしたりしたら本人が処分を食らうことになるし、オレも誰にも言うつもりは……」
「もうお前、黙ってろ」

そう告げられるのと同時に、突然目の前が暗くなる。意識ははっきりとしているのに視界だけが黒に包まれてしまった。

背中で感じる暖かい腕の感触に、初めて自分が抱き締められているのだと理解する。行為そのものは理解したが、しかしその理由は全くもってわからなかった。混乱して逃げ出そうともがくけれど、龍也の力は予想していたよりもずっと強い。どんなに押し返そうと腕に力を込めてもびくりともしなかった。

「ちょっと、リューヤさん、何してるの」
「うるせえ、大人しくしてろ」

あくまで離す気はないらしい。どんなに文句を言ってみても適当に流されるだけで、龍也はまともに取り合ってくれなかった。次第に文句を言うことが無意味だと気付いたレンは不本意ながら口を閉ざし、大人しくされるがままになる。龍也は他に何をするでもなく、ただ力強くレンを抱き締めたまま言葉を紡いだ。

「テメェはもっと自分を大事にしろ。そんなに自分を下に見る必要なんかねぇ。
お前は最低なんかじゃなければ、万が一あいつらがお前の事情を知ったって嫌ったりなんかしねぇよ」
「……何言ってるの、リューヤさん」
「俺は慰めようとして言ってんじゃねぇぞ。事実を告げてるだけだ。……本当は今日、怖かったんだろ、お前。行為自体には慣れてても、あいつらに知られるんじゃねぇかって不安は拭いきれなかった。違うか?」
「そんなこと……」
「だったらなんであの時震えてた?強がる必要なんかねぇだろ、お前はまだガキなんだから。まだまだ甘えていい歳なんだよ。あいつらにそれができねぇなら、俺のところに来い」

悲しかった。少しも自分を大事にしていないレンが。自分を最低だと勘違いして責め続けているレンが。悪いのは彼に手を出してきた男達で、レン自身には何も咎められる所などなく、寧ろ心配されておかしくないというのに。どれだけ自分の価値を理解していないのだろう。レンは自分のことをあまりに知らなさすぎる。周りの人間のことは常に観察し、的確なアドバイスをするような鋭い洞察力を持っているのに。自分のことになるとどうもそれは発揮されないらしい。

悲しくて、愛しかった。目の前のか弱い少年を、自分が守ってやりたい。龍也はそう、強く思った。それは自分が教師だから、というだけではない。一人の人間として、男としてだ。

「リューヤさんって、変わってるよね」
「お前ら生徒たちほどじゃねぇけどな」
「………ありがと」
「ほお、珍しく素直なこった」
「うるさいよ」
「はいはい」

たどたどしく、不安そうにレンの腕が龍也の背中へと回される。甘えることに慣れていないレンは少し気恥ずかしいらしく、顔は俯けたままだった。

龍也の胸に顔を埋め、目を閉じてその暖かさを全身で感じ取る。理由はわからないけれど、龍也の腕の中はとても居心地が良かった。久々に感じる情事以外での人の温もりが嬉しくて、ずっとこのままでいたいという気持ちになる。ずっと、というものが不可能なことだとわかっていても。

せめて夜が明けるまでは彼に包まれていたいと、柄にも無いことを思った。



甘え (120223)


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