※黒音也です、苦手な方はご注意を。マサ←レン前提。



レンは、弱くて傷付きやすい。でも本人は何故かそのことを隠したがって表に出さないから、レンと親しくならない限りはきっとみんな彼に騙されてその本質に気付くことはないんだろう。レンの表面上だけを見て騒ぐ女の子達なんかには特にレンの孤独や葛藤を見抜ける筈が無い。本音なんて少しも入っていない薄っぺらな甘い言葉にいとも簡単に騙されて、正直馬鹿みたいだなって思うのは、多分俺だけじゃないと思うんだけど。
レンもいい加減にそんな無意味なことやめたらいいのに。女の子相手に寂しさを紛らわそうとしたって、寂しいことを上手く隠しているレンの核心をつける子なんて一人もいないんだから。知られたくないから隠すのに、そのくせ誰かに慰めてほしいなんて都合が良すぎるんじゃない?
でもね、俺はレンをわかってあげられる。ううん、きっと俺しかわかってあげられないんだ。

「レーン。今日さ、俺の部屋に来なよ。たまには女の子じゃなくて俺と遊ぼ?」

レン、嫌なこと、あったでしょ。昔の俺じゃきっと他の子達と同じように笑顔に騙されて馬鹿みたいに隣でへらへら笑ってただろうけど、今はもう違う。些細なレンの変化だって見逃さない。目の下に出来た小さな隈も、笑ってるくせにちょっと悲しそうな目も、すぐに見抜けるようになった。でもレンはどんなに辛くても絶対に自分から吐き出すことは無いから、いつも俺がユウドウジンモン、ってやつをして話を聞きだしてる。よく平気な顔していられたなあっていっそ感心するくらい嫌なことがあっても、レンは絶対にそれを奥に封じ込めちゃうんだ。余計辛くなるのわかってるはずなのに、ほんと、不器用。
カワイソウで、すっごく愛しくなる。

「イッキ……」

ほらね、俺にだけ見せる、泣き出しそうな顔。年上ってこともあって表向きは皆のお兄ちゃんであるレンは、本当は寂しがりやで甘えたがりな子供みたい。最初は必要以上に歩み寄る俺を警戒してたレンも、ちょっと甘やかしたらすぐに懐くようになった。寂しがりやの人って、心の奥にあるものを見抜かれるとすぐに落ちちゃうの、知ってた?皆の前で虚勢を張るのには限界があって、誰か一人本音を聞いてくれる人がいるなら、その人に次第に依存するようになる。今の俺とレンはそんな関係。

俺は他の人には見えないようにちっちゃく笑って、レンの耳元で囁いた。

「今日はトキヤ、いないよ」

タイミング良く、って言ったら失礼だけど、トキヤは新しいドラマの撮影が忙しいからしばらく寮に戻ることはないらしい。ロケ地の近くにある宿泊所で過ごすんだってちょっとうんざりしたように言ってた。トキヤは優等生だから、いくら仕事があるって言ってもちゃんと学校に来たいんだと思う。トキヤのことはライバルとしてすごく好きだけど、レンと秘密の話をするためには俺の部屋に来るしかない。だから丁度良い機会だって思った。
え、レンの部屋は駄目だよ。だって、マサがいる。

「マサと何かあったんでしょ?」

レンはマサのことが大好きなんだもん。俺とのお話、聞かれるわけにいかないよね。マサはレンの気持ちなんて微塵も知らないし、レンは素直になれないから他の人よりも酷い態度マサに取っちゃって落ち込んでるのしょっちゅう見るし。いつまでマサに執着するつもりなんだろう。マサはレンの気持ちにだって少しも気付かないくらいの鈍感なのに。最初知ったときは俺もびっくりした。レンってマサのこと嫌いなんだと思ってたから。それ程にレンは嘘が上手くて、そのことが自分の首を絞めてる。だから俺が話を聞いて、レンのこと慰めてあげるんだ。

「放課後ならいつでも良いよ。待ってるから」
「……うん」

小さく頷いてから、ありがとって呟いたレンは、か弱い女の子みたいだった。馬鹿なレン。俺が純粋な好意でレンに優しくしてるなんて思い込んでさ。まあ、下手に警戒されるよりはよっぽど良いんだけど。可愛くて、可哀想で、守ってあげたくなる。もっと言うと、苛めてみたくなる。気丈に振舞うレンの、体裁なんて一切捨て去った本音が聞きたい。そのためにはもっともっと、仲良くならなくちゃ。

◇◆◇

レンが来る前に、部屋を出来るだけ綺麗にして万全の状態で待ち構える。同室なのが普段から綺麗好きなトキヤってこともあって、掃除は割かし楽に終わった。こういう時、自分と正反対の性格の人がいると助かるなあって思う。

「イッキ、いる?」

控えめなノックの音と一緒にレンの声が聞こえてくる。開いてるよ、って声を掛けると、もう何回も遊びに来てるはずなのにやけに緊張した面持ちでレンが入ってきた。扉の前に突っ立って、所在無さ気に視線を彷徨わせてる。その様子が面白くてつい俺が笑うと、レンはちょっと拗ねたような顔をした。

「おいで」

俺は座ってたベッドの隅に移動して、丁度一人分空いたスペースをとんと叩いてレンを呼ぶ。男二人でひとつのベッドに腰掛けるなんてちょっとおかしいと思うんだけど、レンは何も言わずに大人しく隣に座った。へぇ、レン、結構参ってるんだ。些細なおかしいことには疑問なんて抱かないくらいには。レンは普段から気を張って周りを警戒してるし、俺に対しても完全に気を許してるわけじゃない。けど今は多分、気にする余裕さえないんだと思う。

「それで、どうしたの?」
「……喧嘩、したんだ」
「なんだ、いつものことじゃんか。何でそんなに落ち込んでるの?」
「聖川、本気で怒ってて、昨日部屋を出て行ったきり帰ってこなかった……」
「へえ……それは相当だね。マサは真面目だから部屋を出てくなんてしなさそうなのに」

わざと驚いたように言って水面下でレンを追い詰めると、レンは顔を顰めてぎゅっと掌を握り締めた。予想した通りの反応だ。レンって一見掴み辛いけど、案外その心を読むのは簡単。何て言ったら落ち込むのかも、気が紛れるのかも、熟知してるって言ったら過信かもしれないけど。それでも俺は他のどの人間よりレンの気持ちを操れるって自信はある。知ってるのは俺だけでいい。俺だけがレンの気持ちをわかってあげられれば良いんだ。

「もう、聖川はオレのこと、嫌いになったのかもしれない……」
「何言ってんの。マサは誰かのこと嫌いになったりしないよ。そんなこと、レンもよく知ってるだろ」
「でも……あんなに怒ってるの、初めてで……」
「んー、まあ、確かにちょっと時間を置く必要はあるかもしれないけど……」

考えてるフリをしてでっち上げの嘘をつく。なんだかんだで二人は良いライバルなんだから、喧嘩がそう長続きするわけないじゃん。今頃マサの方が仲直りしたくてそわそわしてるよ、きっと。でもそんなこと絶対に言ってやんない。
レンは悲しそうな顔をして、そうだよね、って笑った。一日でもマサに会わないと辛いですーって顔に書いてある。ほんと、なんでそんなにマサのこと大好きなんだろ。

「今日は俺の部屋に泊まっていきなよ。トキヤもいないしさ」
「ん……そうしようかな。悪いね、イッキ」
「んーん、全っ然!一人は寂しいって思ってたとこだし、むしろ良かったよ」

レンは嘘が上手いけど、俺もきっと、それなりに上手いほうだって自負してる。最初から泊めるつもりだったんだよ。そのためにレンのこと呼んだんだもん。でも、気付く筈ないよね。俺は気付かれないように馬鹿なりに必死なんだから。特にレンは洞察力が人より優れてるから、少しでも表情が歪んだら怪しまれちゃう。演技も結構大変なんだよ。まあ、レンを自分のものにするためならこんな苦労、痛くもなんともないけどね。

「マサと早く仲直り出来るといいね」

なんて、少しも思ってないんだけど、一応言っておいてあげる。


◇◆◇


寝付きの悪いレンの規則正しい寝息が聞こえてきたのは、夜中というよりもほとんど早朝だった。一人で眠るのが怖いらしいレンはいつもそのせいで朝寝坊する。弱くて可愛いよね、ほんと。手の掛かる子供みたい。
寝顔は普段の大人びた表情とは違って、実年齢よりもちょっと幼く見える。伏せられた長い睫毛に囲まれた目。頬に掛かる、人より長めの橙色の髪。すっごく綺麗で、思わず触っちゃった。レンは一瞬ぴくって瞼を動かしたけど、しっかり夢の中にいるみたい。

「……ねぇ、マサなんてやめちゃいなよ」

想うだけ無駄だよ、レン。だって俺が、二人が付き合うことなんて許せないから。レンも大概馬鹿だけど、マサもおんなじ。あの二人ってどことなく似てるんだよね。意地っ張りなところとか、不器用なところとか、
――騙されやすいところとか、ね。

ねぇレン、マサはね、昨日俺がこの部屋に呼んだんだよ。さすがに二人が喧嘩したのは偶然だったけど。廊下で一人で佇んでたマサに声を掛けて話を聞いたら、レンに酷いこと言っちゃったから頭を冷やしに外に出たんだ、って。そんなの、チャンスでしかないじゃん。

"少し時間を置いた方が仲直りしやすいと思うよ。今トキヤいないから、俺のとこおいでよ"って言ってあげたら、マサもまた俺を疑うことなんて少しもしないで感謝してその案に乗ってきた。ほんっと、馬鹿だよね、二人とも。両想いなのに、カワイソウ。素直に好きだって言っちゃえば絶対に結ばれるのに、どっちかが踏み出すことは有り得ない。だって二人とも臆病だから。そうしていつも上手くいかなくなって、ほとんど八つ当たりみたいな喧嘩をする。そこに俺が細工をして段々二人の距離が離れてしまえばいい。

レンの気持ちを理解してないマサに、レンをあげるわけにはいかないでしょ?臆病で、馬鹿で、可哀想なレン。俺が代わりに大事にしてあげるよ。

だから、ね。
レンは早く、俺のものになったらいいんだ。



悪いのは誰? (120229)


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