好きだと伝えれば何かが変わるかもしれない。少しだけそれは期待した。俺を意識してくれるかもしれない、気持ちを伝えることで俺のこの態度も改まるかもしれない、理由なく名前とまた会う約束が出来るかもしれない。
伝えてみて思ったのが、 やってしまった だった。あいつは本当に泣きそうな顔をした。あれがどういう顔だったのかは分からないがいい方向に向かわなかったのは理解した。やっと呼べた名前だって焦りからきた咄嗟のもので雰囲気も何もあったもんじゃない。雰囲気だなんてそんなことを気にする日が来るなんて今まで考えたことが無かったがこれが好きな人ができるということなんだろう。こういう経験があまりない俺でもわかる。女の子は夜景のみえる綺麗な場所での告白を好むって聞いたことあるし。まあようは雰囲気が大事ということなんだろう。それが名前に適応されるのかは知らないけど車内はなかっただろうな、と内心で大きなため息をつく。そんな時にきた "会いたいんですけど" という連絡に携帯を落としそうになったぐらいに狼狽えたのは三日前だった。既読は付けたもののなんて返事をしたらいいのか全く思い浮かばない。

「( なんなの、どんな顔して会えっていうの )」

そもそも理由が分からない。アンタは俺と会ってどうしたいわけ?……いや、その前になんて返事をしたらいいの、これ。こういう一大事の時に限ってなるくんとは仕事が被らない。もちろん、許されるなら俺だってあんたと会いたいよ。
無計画で行動したことがなかった俺は無計画にした告白なんかのせいでこんなふうにテンパっている。なんて情けない。全部あいつのせい!じゃなくて。………そろそろ自分の性格に嫌気がさす。

「瀬名くん!」

「え、あ、はい。すみません。」

「ごめんね、視線、こっちにもらってもいい?」

いつの間にか仕事も始まっていたらしい。ああもう、思い通りにいかない!こんなの初めてだ。イライラする。今まで散々色恋沙汰に浮かれる同業者たちを鼻で笑ってきたが俺も笑われる側に回ってしまうとは。
何枚か追加で撮ればOKが出る。ちゃっちゃと着替えると俺はありがとうございます、お疲れ様でした、と挨拶をして車の元へ向かう。


名前と会ってちゃんとこれからの話をしたい。そこですっぱりフッてくれるならいいじゃないか。俺のこの恋だって終わる。少しは引きずるかもしれないが時期に前を向けるだろう。なんて馬鹿みたいなことを考えながら車内でやっとあいつの連絡先を引っ張り出す。すると窓がこんこんと鳴った。はあ?と横を見て言葉を失う。

「……なんで、あんたがいるの。」

俺が今、1番会いたいと思っていた女の子が緊張したような顔でお辞儀をした。