時間は無情にも過ぎて行き、ついに迎えた放課後。せめて一緒に連れて行ってもらおうと朔間くんと鳴上くんに声をかける。
私はお裁縫箱を抱えると二人の後ろを歩く。二人の身長は私なんかより高いから前は見えないがこう、壁感があって安心する。なんだか最強を感じる!

「あれ?今日はあのちんちくりん来るんじゃないの?」

突如聞こえた声に私の無敵ターンは終わった。前にどうやら瀬名先輩がいるらしく二人は軽く挨拶を交わしている。どうやら二人と同じクラスの私が一緒にいない(ように見えるだけ)のが不思議だったのであろう。それにしてもちんちくりん…。確かに背は高い方では無いがいない所ではそんな風に形容されているのかと思うと悲しくなった。

「ここにいるよ。じゃ〜ん。」

朔間くんが横にスライドすると私と瀬名先輩の視線がしっかり合ってしまった。さあ、と血の気が引いた私はぎゅうと裁縫箱を抱きしめる。

「こ、こんにちは…。」

「はい、どうも。」

会話終了。鳴上くんは小さくため息を付くとほらほらと手を打った。

「名前ちゃんも忙しいところ来てくれてるから今いる人だけでもさっさと終わらせちゃいましょう!」

瀬名先輩は私をもう1度ちらりと見るとさっさとレッスン室に入ってしまった。蛇に睨まれた蛙状態だった私はゆっくり脱力した。本当は鬼龍先輩にも手伝ってもらうはずだったのだが急なお仕事が入ってしまったりスケジュールが合わなかったりでその話は自然消滅してしまった。もうこの際だ、仲良くは無いが斎宮先輩に声をかけてみようかと思ったが本日は出席していなくて無理だった。あんずちゃんは忙しくて頼めない。誰が瀬名先輩の採寸するんだろう、と他人事のように考える。

「……とりあえず、着替えたらよんでもらってもいい…?」

鳴上くんにそう言うと指で可愛く丸を作って朔間くんと一緒に瀬名先輩に続いていく。廊下に残された私は壁に寄りかかって携帯を取り出す。このあと流星隊の方にも採寸に行かなくてはならない。そのまま守沢先輩と今後のお仕事のお話して…、と携帯に大まかなスケジュールを書き込んでいく。そうなるとKnightsにさける時間は1時間ぐらいだろう。少し待っていると騒がしく月永先輩と朱桜くんがやってきた。

「あれ?!名前だ!何でいるんだ!?…いや待って分かった、妄想させて…!」

「leader、またsmartphoneを見てませんね?今日はお姉様が採寸に来て下さると連絡があったでしょう!」

「あー!!なんで言うんだ!おれのインスピレーションが死んだ…!」

本当にショックを受けた顔をした月永先輩に苦笑いを浮かべると着替えて欲しいことを伝えた。朱桜くんは慌てたように先輩をひっぱるとレッスン室に入っていく。防音なので先程の騒がしさはこちらには聞こえない。
洋服を作るのは好きだ。こういう服がほしいんだよなあ。と思っても中々サイズが無かったり欲しいデザインとちょっと違ったりする。それなら自分で作っちゃおう!と思ったのが洋裁を始めたきっかけだった。それが認められてこんなキラキラした世界のお手伝いをさせてもらえるなんて本当に有難い。自分で描いたデザイン表をもう1度眺める。これが形になる瞬間、それが一番楽しい時だ。瀬名先輩の採寸をするのは死ぬほど怖い。だが仕事だし、私がやらなくては服は生まれない…!

「名前お姉様、お待たせしました!お願いします!」

ひょこりと顔を出した朱桜くんにぎこち無く頷くとゆっくりと立ち上がる。ぎゅうと握りしめた拳が少し痛かった。


意を決して恐る恐る部屋に入る。ジャージに着替えてもらっているのを確認すると鳴上くんから測っていくことにした。とりあえず1番慣れ親しんだ人からささっと終わらせてこの緊張をほぐそう…!

「失礼します。」

広げた採寸用紙に数字を書き込んでいく。Knightsの衣装はきっちりしたものが本当に多い。フォーマル衣装の勉強になるしデザインが本当に楽しい。
次に朔間くんと朱桜くんと続いて採寸を終わらせて月永先輩に視線を向けるときょとん、とした顔でこちらを見ている。

「さ、採寸です!」

ああ!と言わんばかりに近寄ってくると私に背中を向ける。月永先輩は小柄だ。なので採寸はわりとすぐ終わってしまった。次は瀬名先輩。う、と視線を向けると不機嫌なそれを見つけてしまい、冷や汗が出てきた。指先が震える。

「……採寸してもよろしいでしょうか」

「はあ?そんなの一々聞くとかほんとバカ。それともなあに?俺がダメって言ったらしないわけぇ?」

「します…!採寸します、お願いします。」

息が詰まりそうになる。バカですみません…!と小さく呟くと必死で採寸を終わらせようと取り掛かる。わたわたしすぎたのであろう。かしゃん、とメジャーを落としてしまう。

「ちょっと、なにしてんの?」

モタモタするなと言わんばかりの視線に私は固まってしまった。動かなくなった私に苛々した瀬名先輩の手が私に伸びる。反射的に目をぎゅうと瞑った。

「セナが名前を虐めてる!」

「はあ?意味わかんないんだけど。」

月永先輩が面白そうな声をあげてそう指摘すると瀬名先輩の手は引っ込んだ。やっと息が出来た私はまた震える手で採寸をはじめるのであった。