瀬名先輩のことを考えすぎた私は間抜けな事に熱を出した。そして申し訳ないことに可愛い後輩の武田くんとの約束は延期となってしまった。ベッドに寝転がりながら色々考えるけど未だ整理がつかない。先輩に連絡してみようとは思ったが、なんて連絡していいのかも分からないしもうこれは鳴上くんに相談だ!と思ったけど鳴上くんはそもそも私の気持ちを知らない。

「勝手に脈がないなんて言わないでほしいなあ。」

じっと携帯画面と睨めっこをしてみるも先輩からの連絡もないし私も連絡ができない。あ〜!と携帯を放り投げると枕に顔を押し付けた。

「( 先輩にあいたい。)」

こんな女の子みたいな事を考えるぐらいには参っていた。



月曜の朝になれば私の熱は引いていた。体調が悪かった訳では無いし、と学校へ行く支度をする。完成させないといけない衣装があるのだ。
一昨日の事、やっぱり鳴上くんに相談しようか。でも、鳴上くんに相談しすぎるのも負担じゃないだろうか。しかし1人で考えるには答えが見つからなすぎる。うーん。

「おはよう、名前!」

「衣更くん、おはよう。」

背中をどん、と叩かれて驚いたが衣更くんだと分かれば安心する。朝から生徒会の仕事が有るらしくまた疲れた顔をしている。手伝おうか?と声をかけると朝の仕事は大したものではないらしく大丈夫だよ、と数回私の頭を叩いた。

「じゃ、俺行くから。また後でな〜。」

「うん、ばいばい衣更くん。」

走り去っていく背中に手を振りながら私もとぼとぼと歩いていく。1人になると瀬名先輩の事が頭の中でいっぱいになってしまう。
先輩に買ってもらったカーディガンは学校でも使えそうだったのでちゃっかり着てきていた。可愛いカーディガン。先輩が私の為に選んでくれたお洋服。へへへ、と笑いが漏れて慌てて口を押さえた。こらこらこら。

「名前ちゃん。」

「あ、あんずちゃん、おはよう。」

後ろからあんずちゃんに声をかけられ2人で並んで歩く。今日は1年生ユニットの朝練があるらしい。お疲れ様、とお互いを励まし合うとぐっと拳をぶつけ合う。私は家庭科室に向かった。
衣装を作りながら石田さんのことを思い出した。私みたいなのを人材として欲しいと言ってくれている人がいる。もしあの人の会社に入ったら今後も瀬名先輩の服を作っていけるのだろうか。でも仕事にそういう不純な動機を持ち込んでいいのかな。分からない。
だだだだだ、とミシンの音が部屋に響くのを聞いていると心が落ち着いてくる。私の趣味の範疇でやっていたお洋服作りが仕事にできるかもしれないんだというのは正直に言えば将来の希望だった。
好きなことを仕事にしちゃいけないとは聞いたことあるけどやってみるのもいいのかなあ。うーん、でもまだ少し時間はあるし…!ゆっくり考えればいいのかなあ。

「名前ちゃん。」

「……鳴上くん!」

薄家庭科室の扉が開いていて誰だろうと目を凝らすと鳴上くんだった。

「なんでそんな所からなの?」

「うふふ、なんとなく。今お邪魔?」

「そんなことないよ。どうしたの?」

「土曜日、どうだったのかしらって。」

なるほど、わざわざ聞きに来てくれたようだ。土曜、と呟いてすぐに先輩との一件を思い出す。頬に熱が集まった。相談したいとは思っていたがいざその機会がやってくると緊張してしまう。

「あら?そのカーディガン、可愛いわね。」

「………先輩に買ってもらったの…。」

へえ、と鳴上くんは呟くと私の隣に座った。

「泉ちゃんとデート、楽しかった?」

「デート!??そんなんじゃないんだけど…。でも凄く楽しかった。」

私はそう呟くとミシンから手を離しカーディガンの裾をいじる。鳴上くんはよかった、と言うとそれで?と言う。

「そ、それで…?」

「また会う約束しなかったの?」

「してない。」

え、と意外そうな顔をする。

「先輩から何も聞いてない…?」

「聞いても教えてくれないのよ。だから名前ちゃんに聞いちゃおって思って朝早く来たの。」

俯いた私に何かあると確信したらしくそれはもう楽しそうにつついてくる。ねえねえなかあったの?お洋服他にも買ってもらったんでしょ?どんなの?ランチは何食べたの?ねえねえねえ、と鳴上くんに詰め寄られると私は意を決して口を開いた。

「あのね、瀬名先輩……、私の事好きなんだって…。」

「…………………え?」

ぽかんとした鳴上くんは上体を戻してストンと座り直す。

「ごめんなさいね、もう一度いいかしら?」

「先輩、私の事、好きなんだって……。」

私の言葉を聞いた鳴上くんはニッコリするとはあ、とため息をついた。

「そう……。ついに言ったのね。」

「鳴上くんは知ってたの…?」

ごめんなさい、と鳴上くんは言うと首を縦に動かした。鳴上くんの話によると先輩は学生時代から私に好意を持ってくれていたそうだ。気がついてないのは私と朱桜くんぐらいだったらしい。

「……全然気が付かなかった。」

「でしょうね。泉ちゃん、分かりにくいから。」

なんだ、なんだと私はゆっくり机に突っ伏す。

「先輩に連絡取りたいんだけどなんて送っていいか分からないの。」

「返事してないの?」

鳴上くんの言葉にうーんと呻いた。返事は催促されなかったし私も呆然としてしまって全く記憶がない。そう告げればどうしたいの?と問われる。どうしたいの、なんて答えは決まってて出来ればまた先輩と理由なしに会いたい、許されるなら隣を歩きたい、そう思っている。

「………鳴上くんにも秘密にしてたんだけどね。」

「ええ。」

「私も先輩の事が好きなの。」

鳴上くんは顔の筋肉を全て停止させたみたいななんとも言えない表情をした。その顔初めて見た。

「………、ええと、それは………、まったく気が付かなかったわ。」

「私も気がついたのは数ヶ月前なんだけどね。」

「え?いやでも、あれだけいじめられててよくその、泉ちゃんのこと好きになれたわね…。」

あはは、と笑い返す。自分でも思うけどやっぱり瀬名先輩はすごい人だし何よりあんなに私の洋服を来て欲しいと思える人は初めてだった。

「最初はやっぱり怖かったよ。…でも、私は先輩の事を尊敬してたし、先輩が私に注意してきてくれたことは間違ってはなかったもん。それにちゃんと優しいところもあったよ。」

鳴上くんはああそう、と呟きながら机に額をくっつけた。私と同じ目線になる。

「それでね、鳴上くん。」

「なあに。」

「先輩と連絡を取りたいんだけどなんて連絡していいか分からなくて。会いたいですもなんか変だし、この間の返事したいですもなんか違和感…。このあとどうしていいか分からなくて。」

途端に呆れたと言われる。

「そんなの会いに行っちゃいなさいよ。どうせ泉ちゃんの事だから自分だけ言いたいこと喋って名前ちゃんから逃げてったんでしょう?話を詳しく聞かなくてもその辺は想像ついちゃう。」

「う、逃げたとかはわかんないけど大体そんな感じ…。でも会いに行くって言ってもなあ。どこに行けばいいか会えるのか分からないし。」

がばりと体を起こした鳴上くんはうふふと笑った。楽しそうに目を輝かせている。

「アタシに任せてちょうだい。」

ぱちんとウインクを飛ばされる。持つべきものは頼もしくて、背中を押してくれる友人だな、と鳴上くんを見ながら考えた。