※鳴上視点

泉ちゃんは誤解されやすい人間だ。まあ、多少本人の性格にも問題はあるかもしれないが根は愛情深くて優しい。ただ、素直になれない不器用な人なのだ。それは長年の付き合いからアタシはよく分かってはいた。
泉ちゃんのような不器用さんが恋をしたとなればそれはそれは大変で見ているこちらがヒヤヒヤものだ。そして不運な事に泉ちゃんの想い人である名前ちゃんは非常に鈍かった。人の気持ちに鈍感というよりは自分に自信がないからか他人から好意を向けられてるという発想に至らない。

「( 泉ちゃんが頑張ってみても不審がって結局進展ゼロだったものね… )」

泉ちゃん自身の性格が災いしたとはいえ流石に同情してしまう。可哀想に。
スタッフさんに軽く挨拶をしながらスタジオに入ると既に泉ちゃんがいて携帯を弄っていた。

「おはよう、泉ちゃん。」

「おはよう。」

ちらりとアタシを見るとまた携帯に視線を落す。まあ回りくどい聞き方しても仕方ないわね、と声をかけた。

「次の土曜日、なんの予定あるの?」

「………あいつに聞いたの?」

「名前ちゃんがなんで集合かかったのか分からないって不安がってたから。泉ちゃんなりにデートに誘ったつもりなんでしょ?アタシには分かるけど名前ちゃんは分からないわよ。」

別にいいでしょ、とやっと携帯を置くと頬杖を付いた。

「でっ?どこ行くの?」

「うるさいなあ、なるくんに関係なくない?」

「あらぁ、なんでそんな言い方するのかしら…!?あ〜あ、泉ちゃんに情報持ってきたのに教えてあげる気なくなっちゃったわ。」

アタシの放った情報という言葉にわかりやすく眉を吊り上げると鬱陶しそうに前髪をはらった。

「…気分転換に買い物でも連れてってやろうと思ってる。」

「え?ショッピング?大丈夫…?」

「色々考えた結果なんだから仕方ないでしょ…。水族館はなんかそれっぽくて難易度高いし、遊園地なんて乗り物の待ち時間があるし、残る動物園は想像つかなすぎて意味わからないし、もう無難なそれしかなかったってだけ!」

やけくそに語気を荒くする泉ちゃんを見て口元に手を当てる。それにしてもあまりに余裕が無い。これじゃあ、名前ちゃんが困るわよね。
ふと泉ちゃんの携帯の画面が目に入った。どうやら一生懸命プランは考えているようで調べもののメモをちゃんとしているようだ。ごちゃごちゃと並んだ文字を見てなんだかむず痒い気持ちになる。そこまで整えてるならアタシがあえていろいろ言う必要もないのかしら、と考えているあいだに で?とつつかれる。

「情報ってなに。」

「ほら、前に言ってた凛月ちゃん情報の名前ちゃん狙いの後輩いるじゃない?」

「ああ、この間のガキ?」

あら、もう会ったの。とこちらが驚いたが同時に少しだけ不安が過ぎる。そうなると頻繁にあの子は名前ちゃんに接触しているのだろう。本気度が伺える。

「あの子、泉ちゃんと会った次の日、名前ちゃんと手芸屋さんデートするわよ。」

「はあ?」

若干動揺したのだろうかそばにあったペットボトルを倒した。
現場を見てないのでなんとも言えないが恐らく泉ちゃんよりもスマートに誘っていたし、真っ直ぐさも感じる。きっとあの子はストレートに気持ちを伝えられる子だ。性格も良さそうだしつまり泉ちゃんのライバルで同じ土俵で勝負したら確実に負ける。

「泉ちゃんがモタモタしてるからね。今の名前ちゃんは隙だらけでどうぞ、狙ってくださいみたいな状態なんだから。それに多分だけど武田くん以外にもひっそり恋してる男の子、いると思うわよ。」

「鳴上くーん、瀬名くーん、そろそろスタンバイお願いしていいかな?」

遠くで準備のできたカメラマンから声がかかる。話の途中でまだ何か文句を言いたそうにしていた泉ちゃんはにこりと仕事用の笑顔を作ると返事をした。



撮影が終わると神妙な面持ちでアタシの方へやってくる。

「…良く考えたんだけどショッピングってどうなの。」

間を置いてから思わず吹き出してしまう。そうよね、心配になるわよね、と声をかければぎろりと睨まれる。やっぱり美人がすごむと怖いわね。

「ふふ、ごめんなさい。でも泉ちゃんが一生懸命考えた内容ならきっと名前ちゃんは喜んでくれると思うわ。あの子はそういう子でしょ。」

そう、と安堵したように携帯に視線を落す。その背中をエールを送るつもりで叩いたら痛いと文句を言われた。
その元気があれば大丈夫ね。頑張ってよ、泉ちゃん。