※瀬名視点

俺が話を聞いたのはなるくんからだった。最近あいつの周りをうろうろしている1年がいる、らしい。なるくんは別のクラスでそれを見たことがないとの事で、これはくまくん情報のようだ。意外と周りをみてるあいつが言ってる事だし本当のことなんだろう。それとは別に名前はちゃんと仕事を頑張ってはいるようできちんと実績も残し始めているらしい。らしいらしいらしい、と不確定な情報だらけの自分にややうんざりしてしまう。卒業してしまってから人伝に名前の話を聞く度に会いたいとは思うがなんせ会いに行く理由がない。なるくんやくまくんは理由なんて要るの?と聞いてくるが要るに決まっている。俺とあいつの仲を知らないわけじゃないのにそんな事を軽々しく言うものだから怒りを通り越して呆れが来るほどだ。
今度進路表が配られると聞いて一年前を思い出した。ああ、あれってこの時期だっけか。きっと名前は今、目の前のことにいっぱいいっぱいで恐らく先のことなんて一切考えてないんだろう。

「…で、いいの?泉ちゃん。ほっといたらあの子プロデューサーの道には進まないだろうし、デザイン系ならまだしも普通の職業とかに就いちゃったらもっと接点無くなっちゃうわよ。」

たまたま現場であった時になるくんにそんな事を言われ言葉に詰まる。他のことでは言い返せるが名前の話題に関しては負い目が有るからか尻込みしてしまう。ああ、もうほんと情けない!むかつく!と自分にイライラしても解決はしない。

「……それはもう仕方ないでしょ。俺がどうこう言える立場じゃないの知ってるよねぇ?」

「ん〜、まあ勿論知ってるけど、じゃあ何?諦めちゃうの?」

…諦めるも何も、俺には最初からあいつとの関係に希望がないのだ。無意識とはいえかなりキツく当たったし最後の最後で精一杯優しくしてみても困惑させただけだった。あの機嫌を伺うような視線が今でも忘れられない。

「名前ちゃんがプロデューサーにならないなら泉ちゃんはもう2度とあの子の作った衣装を着れないわね。……ほら、見て泉ちゃん。」

携帯の画面を見せられると何かの衣装の写真だった。すぐ分かるあいつが作った衣装だ。

「アタシはあともう少しあの子のお洋服着れる機会はあるけどね。ふふ、羨ましいでしょ。」

「………べつに。」

「んもう、素直じゃないんだから。」

それじゃあね〜、と現場を後にするなるくんを見て足を揺する。
なるくんにつつかれたからではないが、もし接点というものを無理にでも作るとしたならあいつが俺を忘れる前ではないといけない。それは分かっている。名前の周りをちょろちょろしてるという噂の1年のガキも気にはなるし様子を見に行くぐらいならバチは当たらないだろう。
焦る気持ちを抑えつつスケジュールを確認するとこの後は何も入っていなかった。大学の方も何も入っていない。なんで俺が女の子1人に振り回されないといけないんだろうかとため息をつきながらなるくんに続いて現場を後にした。
あいつには服を作る才能がある。それを無駄にはさせないために他にも道があるということを教えてあげるのもいいだろう、なんてこじつけのように会いに行く理由を作って自分を納得させる。
昔馴染みの仕事相手に連絡を取りながら車に乗りこんだ。