プロデュース科、というものが夢ノ咲という学校に新設されるらしい。アイドルも育ててプロデューサーも育てるだなんてすごいなあ。それにわたしもテストケースとして呼んでもらえるなんて…!任されたからには頑張りたい。と決意を胸に校門を潜ろうとして警備員に止められる。前途多難だなあ、ときちんと学生証を見せて入れて貰えた所でほ、と息をつく。初めての事で大変かもだけど、頑張ろう!


…なんて希望に燃えてた頃の私が懐かしい。自販機の前で私はため息をつく。入って分かった事なのだがプロデュースに関して教えてくれる先生は居なかった。もう一人のテストケース、あんずちゃんと二人で手探りで色々模倣しているような状況だ。まずは信頼関係が必要だ!とこの数ヶ月たくさんコミュニケーションをとってきたしみんながなりたいアイドル像と照らし合わせながら仕事をもらってきたり雑誌に特集を組んでもらったりと色々やってきた、はずなのだが一人だけウマが合わない人がいる。

「ねえ。邪魔なんだけど。」

「す、すみません。」

声だけで誰だか分かる。瀬名泉先輩だ。反射的に謝るとさっさと退いた。もっと機嫌が悪くなる前に退散しようとお辞儀をもう一つして駆け足で去る。
瀬名先輩はどうやら私の事をよく思って居ないようで上手くコミュニケーションがとれない。何をしたというのは思いつかない。生理的に、というやつかもしれない。ずしりと体が重くなったので思わず心臓を押さえる。うーん、解決方法が無いのが1番辛い。なのでKnightsに関してはあんずちゃんにほぼ任せてしまっている。1度プロデュースに関わろうとした時の瀬名先輩の顔が忘れられない。こちらを睨むようにして鋭く光る瞳に私は負けた。怖くてKnightsのレッスンに出られなくなってしまったのだ。本当に心当たりがない。もしかしたら私がこういう業界に疎くて瀬名先輩の名前を知らなかったからかもしれない。そりゃキッズモデルからこの世界に居るのに認知してないなんて言われたらムカつくだろう…。勉強不足だったなあ、と教室に戻ると鳴上くんに声をかけられた。

「名前ちゃん!」

「な、鳴上くん。どうしたの…?」

「んもう、どうしたの?じゃないわよ!いつになったら採寸しに来てくれるの?早くしないと衣装を間に合わないんじゃない?」

その言葉にう、と息を詰まらす。そう、今回は衣装製作の方で関わる予定になってしまっている。採寸しに行かないといけないのだが先輩が怖くていけないのだ。うーん、困った。

「き、今日行く。」

こういうのはさっさと終わらすに限るだろう。意を決して私はお裁縫箱を手元に寄せた。メジャーがあるかどうかだけ確認する。

「そういえばプロデューサーとしては最近全く来てくれなくなっちゃったわよねぇ。」

んー、と口元に人差し指なんて当てちゃって鳴上くんはなんて乙女なのだろうか。苦笑いを返してタイミングが合わないだけだよと伝える。勿論嘘である。良くしてくれる鳴上くんに嘘を言うのは正直気が引けるが許して欲しい。まさか瀬名先輩が苦手で…、なんて口が裂けても言えない!

「ほんとかしら。」

疑わしそうでもあり、好奇を孕んだ視線に私は明後日の方向を向く。こういう風に尋問されるの、苦手だ。万が一私が何かやらかして刑事さんに取り調べなんて受けた日には3秒で色々話してしまう自信がある。

「名前はセッちゃんと上手くいってないんだよ〜。」

背後から聞こえた声に肩が震えた。

「え?泉ちゃんと?」

「そ。なんでかカワイソウな名前はいびり対象みたいで、いつもちくちくされてるんだよねえ?だから、うちに来るの嫌になっちゃったんだよねぇ?」

あらまあ、と鳴上くんは目を丸くすると私の方に向いた。

「う。嫌とかじゃないけど…。……上手くいってないって、なんで分かったの朔間くん。」

「俺、よく見てるでしょ〜。褒めてくれてもいいよ。」

褒めないよ!と机に突っ伏す。

「アタシから泉ちゃんに止めるように言うわよ!もう、泉ちゃんは昔から分かりにくいっていうか…。」

「大丈夫大丈夫、今日はちゃんと行くから。」

鳴上くんに落ち着いて、と伝える。衣装のデザインは見てもらってOKを貰ってる。あとは採寸をしないとなんともいかないのだ。次の授業が始まる鐘を聞くと放課後の事を思って目を伏せた。
ああ、憂鬱。