※瀬名視点

思ってないことを言ってしまうことは自分の性格上多々あった。ただ、こんなに人を傷つけるような事を言ってしまうなんてことは久しぶりだったのでどうしていいか分からない。

「泉ちゃん、」

珍しくなるくんが怒ったような声で自分を呼ぶのを聞いた。

「今のはセナが悪いぞ。」

それをさえぎるように王様が声を上げたので思わずそちらを見る。床に寝転がっている王様は譜面を見ながらもう1度言葉を放った。

「おまえの性格が難しいのはおれは分かってるけど名前は違うだろ。興味のない奴には声すらかけないセナのことだから随分あいつのこと気に入ってるみたいだけどさ、やり方を間違えたら真っ逆さまだ。分かるだろ?」

返す言葉がないとはこの事だ。

「わ、私お姉様を追いかけます…!」

「かさくん待って、俺が行く。」

何処にいるかは分からなかったが頭を冷やすには歩き回るのもいいだろう。
廊下に出て先程の光景を思い出す。流星隊のでかい1年を可愛いと言って眉尻を下げた顔、くまくんに安易に膝を差し出した無防備さ。全てが腹立たしかった。先輩である俺には愛想ですら笑顔を向けないくせに、なんなのあいつ! まあ、今回は言いすぎたとは思っている。王様は俺があいつを気に入ってる、と言っていたが自分では実際のところは分からない。まあ、気にかけてはいる、と思う。
うろうろと居そうな所を一通り見て回ったが見つからない。残るは家庭科室しかなかった。


扉から覗いてみると探してた小さな背中が見えた。机に突っ伏すようにして丸まってる背中は時折震えていて泣いているのが分かる。今まで感じたことがないぐらいぎゅうと心臓が痛くなるのを感じて戸惑った。なんだこれは。ち、と舌打ちをして声をかけようとしたところで家庭科室の窓を叩く音がした。咄嗟に身を引いて様子を伺う。

「名前!」

「………守沢先輩…?」

がたん、と名前が立ち上がって窓を開ける音がした。

「どうした、また具合が悪いのか?」

「あ、いえ、そういう訳じゃなくて…。この間は本当にご迷惑かけました…。」

申し訳なさそうに謝る名前。ここから見えるのは高い位置にいるあいつが守沢を見下ろしているのと守沢の顔だけだ。しかし、名前の声だけでだいぶ落ち込んでいるのが分かった。

「いや、気にするな!それより毎日ゆっくり休むんだぞ。」

「あはは、ありがとうございます。」

何かに気がついた守沢が名前に手を伸ばしてゆっくりと目元を拭った後にあやす様に肩をさすっているのが見えた。

「何かあったか?元気がないな。」

「………、」

ず、と鼻を啜った名前は暫く黙った後、小さな嗚咽を漏らした。

「………私は、皆さんが輝くお手伝いがしたかったんです。アイドルとしてこの3年間を駆け抜ける皆さんを尊敬してて…、でもわたし、馬鹿だし、迷惑もかけちゃうし、段取りも悪いし、邪魔しちゃうし、実際はなんのお役にも立ててなくて…」

う、と言葉を詰まらせた名前に再び後悔の波がやってくる。なんで俺はあいつに普通の態度がとれないのだろうか。色んな感情が渦巻いてどうしようも無くなる。邪魔だなんて思ってない、思ってないのに俺は、

「そんなことはない!」

守沢の声で我に返る。

「お前の作る衣装は素晴らしい!俺たちの特徴をちゃんと掴んで作ってくれてるのも伝わってくるしなんと言っても着心地がとてもいい。勿論、練習を積んだ分自信をもってステージには立つがそれを後押ししてくれるのは名前、お前の作った衣装だ!企画だってユニットに合ったものをちゃんと持ってきてくれるし俺は邪魔だとか役立たずだなんて思ったことはない!お前はもっと自分やってきたことに自信を持つんだ。」

「……もりさわせんぱい、」

守沢がよいしょ、と言いながら窓を越えて家庭科室に入る。

「泣くな泣くな!特別に俺の胸を貸してやろう☆」

子供みたいに声を上げて守沢に飛び込む名前を見て呆然とする。守沢が妬ましい、と初めて思った。俺だってそう思ってるよ。あいつの衣装は本当にすごい。分かってる。守沢みたいな性格だったら俺もあいつのこと傷つけることなんてなかったし感謝を伝えられてたと思う。

「泉ちゃん。」

横から声をかけられてそちらを見ればなるくんが腕を組んで立っていた。

「名前ちゃん、取られちゃうんじゃない?知らないわよぉ、アタシ。」

「は?取られるって何。」

「はあ、もう自分で考えなさい。ほら、戻るわよ。名前ちゃんに謝るのはまた後日にして、今日はあの先輩に任せましょ。」

なるくんに言われても俺はここを動く気になれなかった。盛大なため息をついたなるくんは ほら、と俺を引っ張る。ああ、何もかもがムカつく。ただ、1番悪いのは自分だって分かってる。なんで俺はあいつに酷いことばかり言ってしまうのか、引っ張られてる間考えてみたが全く答えは出なかった。