※瀬名視点


名前と初めて会ったのは王様が帰ってきてすぐの事だった。なんだか分かんないけど無駄に張り切ってて頑張りますよろしくお願いしますだなんて言う割には俺たちのこと何にも知らない、とまあ、チグハグした奴だった。俺やなるくんはメディアには出てた方だし知らないやつの方が少ないぐらいだ。名前は言わずもがな俺たちを知らない少数派で俺たちを見て張り切ってるとかじゃなく純粋に一生懸命仕事をしようと燃えていてなんだか暑苦しかった。

「早速ですが衣装作りの為に採寸させてください!」

「採寸…?」

「はい!実は先生から次のライブの衣装を担当してほしいって頼まれてまして。なので先輩方の映像を沢山見てきました。何となく衣装の雰囲気も理解したと思うので次の合同ライブのコンセプトとええと、Knights…、ですよね、Knightsのイメージに寄せたデザイン画を描いてきました。1人1人少しづつアレンジしてるので見てみてください。」

メジャーを握りしめながら衣装について目を輝かせてぎゃあぎゃあ騒ぐその女が作る服なんてたかが知れてる、と俺は思ったし流石のなるくんも少しだけ引いてる。多少ズレてるこの女がこの俺たちをプロデュースなんて出来るのか聞かなくても分かった。出来るわけない。

「はい、先輩。」

ふわりと笑顔を作ると何故か俺に紙束を渡してくる。

「はあ?なんで俺なの…。」

「あれ、先輩がリーダーじゃなかったんですか?威圧感があるから先輩がそうなのかと思ってました。誰に渡せばいいんでしょうか。」

こいつ、全然俺たちの資料に目を通してない!考えてるのは服のことだけっぽいし、なんでこんな奴学園に入れたのか全く理解ができない!ここの教師共は頭沸いてるんじゃないのぉ!?とキレそうになったところでデザイン画が目に入ってしまった。

「………、」

悪くはない。映像を見たと言っていたし俺たちの動きを研究したんだろう。やたら動きの多い王様、かさくんにはターンをした時や大きい動きをした時に目を引くようなひらりとしたデザインがついてて俺やなるくん、くまくんに関してはわりと腰周りを絞ったデザインになっているようだった。瀬名泉と書かれたデザイン画には他のメンバーより装飾品が目立つ。言葉だけ見れば統一感のない衣装だがこの女のデザインは五人きちんと纏まっていた。恐ろしいほどに目を引くそのデザイン力に言葉を失う。

「まあ、すごいのね。名前ちゃん。」

「はい!お洋服は任せてください!」

「ねえ、なんで俺だけゴテゴテしたの多いわけ。」

名前は少しだけ考える仕草をした。ぼー、と俺のななめ後ろを見てから半開きの口をぱかりと開く。

「先輩の動きが1番しなやかで綺麗だったので細かい動きをした時にその綺麗さに何かを添えられるようなデザインにしたかったんです。石がライトに反射したらすごく映えるかなって。」

途端に顔に熱が集まるような感覚に陥った。ふざけないでよ、なんなのこの女。意味がわからない。なんて言い返したらいいか言葉が出てこない。ああ、情けない!こんなクソガキ1人に…。その後のことはよく覚えていない。採寸は既に終わってたしあの女もいなかった。なるくんがそんな顔初めて見たと愉快そうにしてるのも普段だったらムカついて怒鳴り散らしただろうけどその日は何というかそういう気力がなかったのだ。頭がなんだかぼんやりする。次の日再び意気揚々とレッスンにやってきた名前にどう接していいか分からなかったし、正直今も分からない。俺の態度が悪いのは分かっていた。そのせいであいつが俺に対して怯え始めているのもちゃんと理解しているしほとんどKnightsのレッスンはあんず任せになった。

「何やってんだか…」

名前の笑った顔を久しく見てないなんて思いながら俺は早朝、学園の廊下を歩いていた。あいつがグループトークにメッセージを送ってきたのが深夜を回った頃だ。恐らく泊まりだったんだろう。
大きくため息をつくと俺は家庭科室のドアを引いた。案の定鍵は空いてて警戒心の無さに怒りが湧く。夜一人で鍵もかけずに作業をして仮眠とるとか馬鹿じゃないの!?

「ちょっと名前…っ、」

机につっ伏すジャージ姿の名前。ほ、と胸を撫で下ろすと静かに近づく。顔を覗き込むと気持ちよさそうに寝ていて特に誰かに何かをされたとかはなさそうだった。並べられた五人分の衣装を眺める。誰がどれかなんてすぐ分かるデザインだった。右から2個目、これが俺の。
再び名前に視線を戻すと思わず頬に触れる。人差し指に触れた ふに、とした感触に慌てて手を引っ込めると代わりに肩を揺すった。

「ん、え。」

ぼんやりと辺りを見回してからゆっくり上体を起こし伸びをした。猫みたいに顔を擦る仕草をする。

「んん、リビングで寝ちゃったみたい、ごめんねお母さん。」

「………誰がお母さんだって?」

一瞬動きが固まるとゆっくり俺の方に視線を寄越した。さあ、と青ざめていく顔はいっそ清々しい。

「おわ、おはようございます、瀬名先輩…。」

「あんた、髪の毛乾かさないで寝たでしょ、ごわごわなんだけど!?信じらんない、気を使いなっていつも言ってるよねぇ?」

俺の言葉を聞くと悲鳴みたいな息を漏らして借りてきてたであろうドライヤーを用意している。名前の腕に王様から貰ったのであろう見覚えのある髪ゴムがあった。もやもやとした感情が湧き上がった。それを隠すようにため息を吐くとドライヤーを奪う。

「俺がやってあげる。前向きな。」

「え!いいですいいです!大丈夫です、お手間かけられません!」

王様には髪を触らせたのに、俺にはこの態度。自分がしでかしたとことはいえこうもあからさまだと腹が立つ。

「前を向け。」

ピタリと動きを止めるとロボットみたいにぎこちない動作で前を向く。怯えきって小さくなる背中を見て反省をしたが、優しい接し方なんて今更出来るものなのだろうか。細い髪を梳きながらこの女とどう接していくのが正解なのかと頭を使ってみた。しかし。どんなに考えても答えは出ないままでさらに俺はもやもやとした気持ちを膨らませるのであった。