母親に今日は学校に泊まる、と連絡をした。いつ泊まりになってもいいように数枚着替えもロッカーに入れてるしあとは食料だけ買い込まないと購買は閉まってしまう。放課後私はレッスンの約束をしていた流星隊の所へ行く前に購買に寄った。おにぎりとおにぎりとお味噌汁。

「すみません、お待たせしました!」

部屋に飛び込むと1年生のメンバーはちゃんと居たが守沢先輩と深海先輩が来てないらしい。深海先輩はともかく、守沢先輩からは連絡もないようだ。ちょっと二人を探してくるね!と再び部屋を飛び出した。深海先輩はどこにいるか検討はつく。が、守沢先輩が遅れるなんてあんまり考えられない。とりあえず教室に行ってみようと3年生のフロアに向かう。
ええと、どこのクラスだっけなと3Aを覗くと守沢先輩の頭が見えた。まだホームルーム中だったので、あ、じゃあ深海先輩もか?と3Bを見てみたがもう既に解散の状態。ふむ、じゃあ先輩を待って深海先輩を経由してから流星隊に合流しようと扉の横に寄りかかった。南雲くんに状況を説明して先に始めておいてねとお願いをするとポケットに携帯を滑り込ませる。丁度ホームルームが終わったみたいなので後ろから首をのぞかせ、守沢先輩に声をかけた。

「先輩、先輩。守沢先輩!」

「お!名前じゃないか!どうした?」

「あ、ええと、お迎えです。」

おお!と守沢先輩は嬉しそうに寄ってくる。肩越しにちらりと瀬名先輩と目が合ったような気がして慌てて逸らした。深海先輩がまだなので噴水の方に1回見に行きたいんですけど、と伝えると元気よく 行こう!と言われてしまい周りの視線が集まった。少々恥ずかしい思いをする私は慌てて しー!とジェスチャーをしてみるが意味は無いようだ。
案の定水浴びをしていた先輩をなんとか引きずり出してみんなの所に合流する。私は再び先に始めてもらうように伝えると先輩の作った水の道を処理しに廊下に出た。雑巾とバケツで道を消している途中に影が落ち、なんだろうと顔を上げると月永先輩が私を見下ろしていた。

「うっちゅ〜☆」

「あ、ええとこんにちは…。」

何してるんだ?と先輩が同じ目線にしゃがんでくれたので私は水を拭いてるんですと先輩の後ろから伸びているそれを指さした。

「おお…!なんだそっか。手伝う?」

「あ、いえいえ!先輩もレッスンありますよね。早く行かないと朱桜くんが怒りますよ。」

あはは、と先輩は笑うと私の顔をじっと見る。

「……なんか元気ない?」

「ありますあります!」

少しだけ考えるような仕草をした先輩は よし!と私の後ろに回り込んだ。慌てて目で追うと前を向いてろと言いたいのか頭を前に戻されてしまう。

「ルカたんが言ってたんだけどさ、女の子は髪型とかいつもと違うことをすると気分が上がるらしい。」

「る、ルカたん。」

前にちらっと聞いたことがある。先輩の妹さんの名前だ、と思う。髪の毛を触られているのか引っ張られる感覚に完全に戸惑ってしまった私はとりあえず大人しく固まる。こっち持っててと作業が終わった方の髪を回される。暫くして私が持っていた方も後ろに引っ張り直す。

「完成!さすがおれ!完璧だぞ〜!ほら名前見て!」

「え?え?」

見てと言われても鏡なんてない。恐る恐る触ってみるとどうやら編み込んでくれたらしくそれを後ろでハーフアップにしてくれているようだ。

「わー!月永先輩!すごい、こんなのできるんですか!?」

後ろを振り返ると髪の毛を下ろした先輩がいてどうやら髪ゴムを貸してくれたようだ。

「おれは天才だからな!ルカたんのアレンジもたまにやってあげてるし別に難しいものじゃないからおまえも簡単に出来るぞ。今度教えてやろう!」

「髪ゴムまで借りてしまって…。ありがとうございます…!」

あまりにも私が嬉しそうな顔をしていたようで月永先輩は満足したように腕を組んだ。時々優しい顔をすることがあるけどお兄ちゃんの顔というやつだろうか。

「その髪ゴムはおまえにやる!」

「ひえ〜…!恐れ多い!ありがとうございます!」

じゃあと立ち去ろうとした月永先輩が後ろから呼び止められた。

「王様!」

若干キレ気味のこの声。絶対瀬名先輩だ。

「お、セナ!どうした?あれ?もしかして怒ってる?うーん、綺麗な顔が台無しだぞ〜?」

「うるさい!あんたねぇ、ちゃんと集合時間連絡したのになんっでこないわけ?ほら、行くよ!」

私は床を拭いてる態勢のままだったので気配をなるべく消す。今度はきっと "レッスンあるって分かってるのに引き止めて!" と怒られるに違いない。無意識に雑巾を握りしめていたようで慌てて離した。瀬名先輩はわあわあと月永先輩に文句を言ったあと少し沈黙した。どうしたのかと恐る恐る見上げると目が合ってしまう。

「あんたそれ、似合ってないから。」

その言葉がぐさりと心臓を抉るように刺さる。気がついた時には1人になっていて私は少しだけ泣いた。先輩とは一生仲良くなれない。


なんとか流星隊のレッスンに戻ると深海先輩がしょんぼりと近づいてきた。

「すみません、ぼくが『 みずあび 』をしたせいであなたにごめいわくをかけてしまったようで…。ちあきにもおこられてしまいました。」

「えー!とんでもない!気にしないでください。こういうのも私の仕事ですから!」

深海先輩はにっこり笑って やさしいですね、と頭を撫でてくれた。すこしひんやりした手は今の私には気持ちよかった。


レッスンも終えて流星隊のメンバーと別れると家庭科室に向かう。もうあと少しだし明日には着てもらえる。残りの衣装は集中できたのか日付が変わる前には完成した。終わった…!本当は凝った装飾とかも作りたかったけど踊る時重そうだな、とか色々考えすぎるとドツボに入るようで中々作業が進まない。動いてもらってから追加するか考えよう!と、とりあえずご飯を食べる。食べながらKnightsのメンバーに明日衣装合わせをしたいことを連絡してみた。
やることが終わった私はシャワールームを借りようと家庭科室を出る。意外と電気は付いていて思ってたより夜の学校は怖くない。ぱぱっとシャワーを浴びると再び家庭科室に戻って机に突っ伏す。腕につけっぱなしの月永先輩の髪ゴムを見て瀬名先輩を思い出した。
似合わないかあ…。再び心臓を抉られたようなショックを受けると私はそのまま意識を落とした。