お祭り、行かないの?と後ろから声をかけられた私はこの声は、と腕を組んだ。

「分かった!ひなたくんだ!」

どうだ!と振り返ればピンク色のヘッドホン。あったり〜とダブルピースを披露してくれた後、再度祭りに行かないのかと問われる。

「お祭りかあ。」

「そう!せっかくの夏なのに勿体ないと思わない?」

「まあ、そうねえ。」

でも、と自分の手元の資料の束を眺める。

「でも私、仕事が山積みなの。ひなたくんは?ゆうたくんと行くのかな。」

「あー、ゆうたくんは別のお友達と行くみたい。」

「そうなんだ。寂しいね。」

「まあね〜。と、いうことで寂しい俺と花火でも見ない?実は、ここの屋上から見えるんだ。だからギリギリまで仕事できるし、なんだったら手伝うしさ。」

どうどう?と迫るひなたくんに「う〜ん、」と唸る。花火見るならじゃがバターだって食べたいしかき氷だって食べたい。わたあめ、りんご飴…。じゅる、と口元が鳴った。私の様子を見たひなたくんは「決まった?」と笑う。



私が仕事をバリバリと終わらせてる間にひなたくんは屋台を回ってくれたようで屋上に上がるとたくさんの屋台飯が並んでいた。

「うわ〜ッ、美味しそう…!」

「わお、食い意地張った顔!はい、お箸。」

安っぽいプラスチックの器がパリパリと音を鳴らしながら私の手に収まる。じゃがいもの温かさにじんわりと気持ちもほっこりしてしまう。お箸を受け取りじゃがいもに突き刺すとホロホロと崩れた。それを箸で口に運んだ瞬間ニヤニヤしてしまう。

「おいし…………。」

「喜んでもらえて何より!」

ほらほら、まだあるよ〜?と私に食料を差し出しながら自身もパクパクと容器を空にしていく。

「あ、そろそろ花火の時間じゃない?」

「え、もうそんな時間?」

お行儀悪く箸をくわえたままで腕時計を確認した所でドンッと鈍い音がした。は、と空を見上げると立派に広がる光が目に飛び込んできた。

「わあ…!」

キラキラと光の粉が落ちていく。遠くで観客だろうか、楽しそうな歓声が聞こえる。すー、と息を吸うと熱の篭った熱い空気が肺に入る。
2発目、3発目、と打ち上がるのを私とひなたくんはただじっと見ていた。
うち上がる度に花火の周りの空はピーコックブルーが縁どる。
今年の夏はプロデュース科に転校してきてから初めての夏で、あまりの忙しさに夏らしいことなんてひとつも出来ないんだろうな、なんて思ってたけど私は今こんなに美しい景色を見ている。ちらりとひなたくんを見ると楽しそうに私を見ていた。

「楽しい?」

「う、うん。おかげさまで…。ひなたくんは…?」

「俺はとっても楽しいよ。こんな夜に先輩を独り占めしてるんだから!」

ば、と立ち上がって心底楽しそうに私に手を伸ばす。座ってないでフェンスの方まで行こうと誘ってくれているのだろう。ひなたくんの背後で花火が上がった。
牡丹色が鮮やかな割物だったと思う。ひなたくんは私を立ち上がらせると ほら、と夜空を指さした。

「た〜まや〜!」

ひなたくんの声が随分近くで聞こえる。熱の重なった手元に緊張してしまう。誤魔化すように空いてる手で額を拭った。乾いた音と共に開いたスターマインを私は生涯忘れないだろう。