「うわ〜!暑い!」

そう騒いだ女生徒の声に月永レオは目を細めた。ギラギラと降り注ぐ日差しの下に彼女はいた。転校生と呼ばれるその子はもう1人の転校生とは対照的だった。ガサツで、素行もあんまり良くなくて、アホみたいに明るい。あんずが暗いと言ってるわけでは無いがあれだけ目立つ大きな声を彼女は出せないだろう。
疑問だった。あの子は何故こんな炎天下の下にいるんだろうか。レオでさえ暑さに音をあげて室内に避難したというのに好き好んで外に出る理由が分からないしレオが言えた疑問ではないが今は授業中だ。立派にサボってるその小さな背中はゆらゆらとかけていく。徐ろにこちらに向かってターンをすると長めの助走をつけて 飛んだ。片手で地面を弾いてふわり空中に浮かんだ胴体がきゅうと捻られ着地をする。あ、すごい。とレオの唇が動いた。窓を開けると蒸し暑い空気に喉を詰まらせる。草の匂いが濃い。すう、とそのだるい空気を吸い込むとお腹に力を入れた。

「なあ、おい!」

「うわっ!」

レオの呼びかけにビクビクと辺りを見回すのを見てこっち!と両手を振り回す。

「ああ、月永センパイか。驚かせないでくださいよ。私は今椚センセイの授業をサボってるんですからね。小さな物音ひとつが恐怖です。」

「わはは、なんだそりゃ。ちゃんと授業には出ろよ〜?そんなことよりさっきのすごいな!」

さっきの?と首を傾げるのをレオは飛ぶヤツ!と返す。顎に手を当てああ、とはにかんだ女生徒は悪戯っぽく口元を釣り上げた。

「ありゃ、見られてました?」

「片手ロンダート?」

「まあみたいなもんですね。今日、アクロバットの方面でダンスを強化したいユニットがいるので自分もできないと、と思いまして。元々こういうのは得意なんでまだ出来るかな?っていう確認までに。」

センパイは?と問われたレオは譜面を見せる。

「インスピレーションが止まらなかった!」

「はあ、そうですか。そんなこったろうなとは思ってましたが期待を裏切りませんね。はは。」

視線を外され あつい、とシャツをパタパタする隙間、レオはあ、と呟く。

「きいろ。」

「はあ?」

怪訝そうにこちらを見て額の汗を拭う彼女は数秒後、レオの言葉を理解する。呆れたような顔をする彼女は両手で体を抱きしめるような仕草をして「センパイのすけべ。」と呟く。

「センパイ、そういうの見えても言わない方がいいですよ。」

軽い返事をしながらレオの頭はまた音楽を作っていた。