名前の事を好きだと気がついて付き合うようになってからまあ、1年は経ってないけど長いこと一緒にいた俺たちは一緒に暮らし始めてからというもの喧嘩もせずに本日まで仲良くやっている…という出だしから始めたかったのだがそうもいかないのが俺と名前の関係だ。様々な誤解やらなんやらを乗り越えての今日である。今でも名前とは些細な事で喧嘩をするし、こっちがげっそりするんじゃないかってぐらいの心配をかけられたりする。今回の話はその心配の方の一例だったりする。



「凛月くん、今日は遅くなるね。」

「うん。」

今朝そんな話はしたけどまさか朝まで帰ってこないとは思っていなかった俺は日付を越えても帰ってこない名前に執拗いぐらいに連絡したり仕事用SNSもチェックしたりしていた。仕事用のSNSは最後に呟いてから三日経っていた。佐々井っていう男の連絡先を知らないので今どこで名前が仕事をしているかなんて聞けない。ああ、もうこんなことが起こるなら聞いておけば良かった。
俺は急に不安になった。もし名前が帰ってこなかったらどうしよう。ひどい喧嘩を繰り返して付き合うようになって、ほぼ無理やり日本に留まらせたのは俺だ。今だって喧嘩が一切ない訳では無い。愛想を尽かした名前の気が変わっちゃってやっぱり両親のところで作曲する!だなんて言われたらたまらない。いや、本来はそうすべきなんだとは思うんだけど一緒にいたいわけで…。どうしようかとグダグダ考えているうちにまたひとりぼっちになってしまうのではないかという不安がプラスでやってきた。名前が居なくなった数年前の事を思い出す。現在使われておりませんだなんて機械音声を二度と聞きたくない。

「……電話出てよ…。」

何回目かわからない着信履歴を残すと徐々に明るくなる時間になっていた。ソファーに腰を下ろすとそのまま横になる。ああ、気分が悪い。



「あれ?凛月くん?」

うとうとしていたようで名前の声にハッと目が覚める。リビングの扉のところで俺と時計を見比べて近寄ってきた名前は俺が寝転がっていたことを知ると露骨に眉を顰めた。

「えー、ソファーで寝るのやめてって言ってるじゃん。凛月くんの髪の毛細いから掃除しにくいんだよね。」

もう!だなんてぶつくさ文句を言いながら荷物をおろしている名前を見て俺はだんだん腹が立ってきた。

「…こんな時間まで帰ってこないなんて聞いてないんだけど。何回電話しても出ないし、俺がどれだけ心配したか分かってる?」

え?と名前は携帯を確認するとさあ、と青ざめた。

「やだごめんね。電池切れてた…!」

そう言うと真っ暗な画面を見せてくる。

「なんで気づかないわけ。遅くなるって言われてはいたけどこんな時間まで、帰ってこないのは…、」

心配するでしょ、と自分でも驚く程にか細い声が出て口を噤んだ。恥ずかしい。なんだか俺だけが名前の事を好きみたいだ。

「…ごめんね、急な打ち合わせとかトラブルとかメンバーの送り迎えとかあって気がついたらこんな時間になっちゃってたの…。凛月くんに連絡してから仕事すれば良かったね。」

名前はソファーに腰掛ける俺の横に来るととん、と体を預けるようにしてもたれた。ごめんね、凛月くん。心配してくれてありがとう。心底申し訳ないみたいな顔をするものだから俺は名前に何も言えなくなってしまった。

「今度からはちゃんと連絡してね。絶対に、約束して…。」

名前の体に腕を回すと今度はこちらの方から寄りかかるようにして押し倒す。わあ、と間抜けな声で転がった名前が重いと文句を言う。

「これは戒めだよ。俺の重みを常に感じておくように。」

「なにそれ。」

ふふ、と笑った名前が大きく欠伸をした。
ぽつりぽつりと今日あったことを話始める名前に俺は相槌をうつ。一通り聞いてから今日のスケジュールを聞いてみれば今日は休みらしい。子供みたいに目を擦ると俺の首に腕を回す。

「凛月くん、今日は心配かけてごめんね。怒らないでね。」

ぎゅうと胸元に頭を押し付けられると名前の心臓の音が聞こえた。小さな鼓動が子守唄みたいで安心と一定のリズムが俺の眠気も誘う。名前は既にすう、と寝息を立てていて俺も目を伏せた。俺の明日に名前は居るし、名前の明日にも俺が居る。その事実が何度考えても俺には幸せに感じてならなかった。
次に起きた時2人して床に転がってて笑っちゃったのと寝ぼけたままの名前が目玉焼き焦がしてそれが発端で喧嘩しちゃった話はまた今度にしようね。