「ふあ、」
私が欠伸をすればすかさず先輩が話しかけてきた。
「おや!?おねむですか?では私が子守唄を歌いましょう!」
「うるさ……、要りません。」
「うーん、つれないですねぇ。」
先輩は声が大きくて鬱陶しい。あー、もうほんとうるさい。そもそもなんで私の秘密のサボり場にいるの。…と、いってもここは夏目くんに提供してもらっている場所だし先輩が知ってるのは不思議ではないのかもしれない。
「先輩鬱陶しいので嫌いです。」
「ふふ、私はあなたのそういう正直な所がだ〜いすきですよ!」
仮面みたいに笑顔を貼り付けやがって。そういう所が大嫌い。大好きとか好きだとか愛してます!だなんて言うくせに私のことは一切見ていない。嘘ばっか。日々樹先輩は嘘つきだ。
「はいはい。では先輩、さっさと出ていってくれませんかね。もう私寝たいんです。」
「ああ!機嫌を損ねてしまったようですね!こちら薔薇なんていかがでしょう!あなたの周りに薔薇を敷きつめて…」
「要らないです。」
「今なら鳩もでますよ!」
「出さないでください。もうほんとうるさい…!そういう所がほんとに嫌いです。騒音を押し付けないで!」
きょと、とした先輩は途端に泣き真似を始める。
「そんなつもりでは…!あなたに喜んでもらいたい一心で…っ、」
「はいはい、もうわかりました。私が悪かったです。先輩だーいすき。もう寝ていいですか?」
「今なら鳩もでますよ!」
「鳩推して来るなあ…。じゃあ鳩出したら帰ってください。」
「Amazing!!」
ばさっと大きな音がして私の目の前を鳩が数羽飛んでいく。鳩もスタンバイしていたのだろう。見事な羽ばたきだ。ぱちぱちと乾いた音で拍手をすると私はブランケットを抱き寄せた。
「素敵な鳩と薔薇をどうも。それでは。」
「ええ、また。」
瞼が落ちる直前に見えたのは三日月みたいに弧を描く先輩の瞳。いつも見る馬鹿みたいな顔とは違った気がして背中を這い上がる寒気に慌てて体を起こす。
日々樹先輩は既にいなかった。ああほんとあの人嫌い!!!