春の強い風がスカートを揺らす。ぶわりとスカートが捲れ上がるのを冷静な気持ちで眺める。やはりスカートが風に靡くのはとても可愛い。なぜ私がこんなに冷静なのかと言われれば答えはひとつ。下にジャージを着ているからだ。徒歩で通学しているため用意は万全にして歩かないと風の強い日は恥ずかしい思いをする事がある。自分の準備の良さに機嫌を良くしながら門を潜った。



と、言っても学校で下にジャージを履いたままなのは面倒だった。お手洗いに行く時は勿論、今の時期は意外と暑いのだ。
空き教室に入ると鞄を置いてジャージを下ろすために手をかける。するりとお尻をジャージから抜かしたところでがちゃりと扉が開く音がした。

「あれ?だれかいんの?」

思ってなかった入室者に体が固まる。ドアの方を見ると月永先輩が居て譜面だと思われる紙の束をもって唖然とこちらを見ている。スカートが上がってしまっているし完全に下着が見えているだろう。お互いに無言。冷や汗が止まらない。

「え、あ、すみません…!」

焦った私は隠れようとしたが中途半端に足に引っかかったままのジャージに足元をとられ尻餅をつく。どん、という衝撃がお尻に伝わって痛い、と叫んだ。ひりひりとするお尻を擦りながら呻く。いや、そんな事より月永先輩に下着を見られてしまった。どうしよう、何履いてきたっけ!?と完全にパニックになりながら足を閉じてジャージを取り払った。

「え?大丈夫か…?!」

バタバタとやってくる月永先輩は机が多くて気づかなかったのだろう。床に置いてあった私の鞄につまづいた。

「え」

ぐらりと先輩の体が傾いて私の方へ倒れてくるのがスローモーションみたいに見えた。目を真ん丸にした先輩としっかり視線が絡む。
運動神経のいい先輩だが流石に今回の回避が難しかったようだ。そのまま私の頭を守るように抱き寄せるとこちらを押し倒すような形で飛び込んでくる。

「ぶ、」

月永先輩に鼻をぶつけ変な声が出てしまったのを少し恥ずかしいと感じるが一連の漫画みたいな出来事に内心で笑いが起こってきた。なんだこれ。
いてて、と耳元で先輩の声が聞こえて当たり前だけども距離の近さにドキドキしてしまう。

「あ〜!ごめん、大丈夫か?!どこも痛くない?」

慌てて起き上がった先輩が一瞬にして固まる。お約束みたいにして私の胸に添えられてるご自身の手に気がついたのだろう。私も今気がついた。

「………」

何故か先輩はそのままやわやわと数回私の胸を揉んだ。

「先輩。」

「え!?あ、ほんとごめん。つい!」

つい、じゃないです…!と私も起き上がって乱れた服を整える。ぐっちゃぐちゃになったスカートを直しているとさっきの転倒を思い出す。

「………先輩、私のぱんつ、見ました…?」

「…………、たぶん。」

「忘れてください…!ほんとお目汚ししましてすみません…!」

先輩は私の言葉にむ、と眉を寄せた。

「女の子なんだから!こういうのはノックしなかった男のおれが悪い。おまえは軽率に謝るな!」

「え、あ、はい…?」

いや、そんなこといったら鍵をかけてなかった私が悪いのに…、と先輩の優しさにきゅんとする。

「すみません…、ほんとに…。私も次から鍵をかけます。」

「気をつけろよ〜…?男ばかりの学校だからな。」

念を推すように人差し指を突きつけられるとたじろいでしまう。はい、ともう一度返事をしたところで先輩は何か思いついたようで紙に音符を書き始めた。それを見ながらまだ恥ずかしさの残る頬を冷ます。

「……、」

ぴたり、と先輩の手が止まって遠慮がちにこちらを見た。

「……?」

「あのさ、ごめん、もう1回触ってもいい…?」

「……………、せ、先輩のえっち!」

はい、どうぞ、と答えそうになってから違う違うと頭を振った。なんて言って良いのか思いつかず言葉が出なかったがこれまた漫画みたいなセリフを叫ぶと鞄を引っ掴んで教室を出た。冷めない頬と少しでも先輩になら触ってもらってもいいかと思った自分に言葉にならない声を発する。
後ろから先輩が「名前ごめん〜!嫌いにならないで〜!」と追いかけてくる音が聞こえて足を早めた。