私は昔からひとつのことに執着ができなかったし他人のものほど羨ましく見える質だった。それは成長して高校生になったからといって薄れることは無かった。
そんな私にもたった1人手離したくないと思える人が出来きた。大きな進歩だな、と考えながら大してよく知らない大人の腕に自分の腕を絡める。
瀬名泉という名前を聞けばなんとなくでも、"ああ、あの人ね"と皆が知ってるような男の子と私は付き合っている。モデル仲間から発展した結果である。
私は自分より綺麗な人間を人生で初めて見た。出会った瞬間この人が欲しいと感じたし、手に入れてからは手離したくないと心の底から思った。私の人生の大きな進歩だ。ただ私の長年の習性は治らなず今に至る。

「名前ちゃん、今日どこ行きたい?」

「どこでもいいですよ〜。」

愛想笑いは得意だ。求められている愛らしい表情をつくる。
浮気癖があるからと言って誤解されたくはないが、一線は決して越えてない。体の関係までは行きたいわけではなく、疑似恋愛みたいなものでそこまでのドキドキを感じたいだけなのだ。泉くんは私を「恋愛脳」と馬鹿にする。というわけで泉くんは私のこの癖をご存知なのである。ただ、私は浮気癖だけをこじらせてるわけではない。最近は疑似恋愛よりも癖になる事がある。

「名前」

後から泉くんが私を呼ぶ声がする。最近は私の予定がある日は邪魔をしてくるようになった泉くん。今日も例外ではないらしい。

「あんた、いい加減にしなね。」

ちらりと後ろを振り返れば呆れたように腕を組んでいる。泉くんはつかつかと近寄ると私とおじ様を引きはがす。

「ごめんねえ、俺は自分の女をレンタルする趣味はないの。ほら、どっかいってよね。しっしっ。」

呆気に取られたおじ様は動けない様子だったが泉くんは気にせずに私を引っ張って反対方向へ歩いていく。

「泉くん、迎えに来てくれてありがとう。」

「馬鹿じゃないの。さっきも言ったけどいい加減にしてね。次やったら別れるから。」

うん、と頷くが彼がこう言うのも、もう両手じゃ足りないぐらいだ。きっとこの人も私から離れられないでいる。私の事を本気で好きでいてくれるのは泉くんだけだっていうのも分かってる。でもやめられないのだ。浮気癖の他に私は独占欲のにじみ出る顔で私の邪魔をする彼のお迎えが欲しくなってしまったのだ。ぎゅうと私の腕を掴む泉くんの手に力が入る。

「( ああ、最高 )」

前を向いていて分からないがきっと泉くんは本当に怒っている。私がほかの男と歩いてるだけで嫉妬してくれる。なんて愛おしいんだろう。

「泉くん、もうしないから。」

「あと何百回それ聞けばいい?」

「ふふふ、だって、」

私が笑ったのが相当気に入らなかったのだろう、振り向くとばしんと頭を叩かれる。こういう風に私に手を上げるのも泉くんだけ。

「何笑ってんの。」

「ごめんて。………治そうとは思ってるんだよ。泉くんだって前より回数減ったの知ってるでしょ?」

努力してるの、と泉くんに擦り寄れば抱きすくめられる。泉くんの匂いが鼻腔をくすぐる。安心する匂いにそっと目を伏せた。

「知ってる、分かってる。」

「つらい?」

そう聞けば静寂が訪れる。肯定なのだろう。

「別れる…?治るのもうちょっとかかりそう。」

「別れない。」

そっかと私は泉くんの背中に腕を回す。この人は私を見放さないでいてくれる。ずっと私の手を握っていてくれる。迎えに来てくれる。今までは私のこの浮気癖は仕方ないで片付けられてきた。付き合ってきた男は2回目の浮気で離れていった。当たり前である。でもこの人は違う。

「帰ろう。」

私を離した泉くんは再び私の腕を引く。私より高い彼の背中を見上げながら口角をあげる。
好きよ、大好き。
そう伝えた所できっと泉くんは傷つくだけだろう。私が完全にこの癖を直した時に沢山言わせてね。