「名前さん、」

にこりとあどけなさの残る笑顔を向けられて私は戸惑った。こういう顔をする時は録な提案をしてこないのがこの年下の彼氏である。高校を卒業して1年目、随分大人っぽくはなったものだが端に残る表情はまだ子供である。
司くんは英語が並んだ明らかに高級品です!と主張する缶を持っていた。私も司くんも甘いものは大好きだ。特に司くんは駄菓子などにも幅広く手を出しているのでよくメンバーの先輩に怒られているらしい。可哀想に。

「……何それ。」

「見てわかりませんか?」

Macaronです、と流暢な発音を混ぜながら ふふんと缶を開ける姿は正直テレビ画面で見るきり、とした表情とは異なってギャップが激しい。とても可愛い。

「名前さん、食べたいですか?」

「食べたいですか、って一緒に食べるから持ってきてくれたんじゃないの?」

司くんは缶の下で蓋になってる白い紙を取り外すとどれにしようかと見つめた後1個取り私に向き直った。

「はい、名前さん。どうぞ。」

ありがとう、と受け取ろうとするが避けられてしまい混乱する。くれるって言ったじゃん!

「私が食べさせて差し上げますのでどうぞお口をあけてください。」

「え、や、やだ。」

普段こういったやり取りはしない為気恥しさの勝った私は首を振った。そもそもマカロンを食べさせるってなんでそれにしたの。ボロボロ零れるじゃん…。

「……どうしてもですか?この為にParisから取り寄せたのですが…。」

しゅん、と視線を落とされる。司くんのこういうところにめっぽう弱い私は言葉に詰まる。

「わ、私が食べさせてあげるよ。私たちそういう方が得意じゃん?」

そうなのである。普段は司くんが甘えてくるというか、…彼は甘やかされるのが好きだ。名前さん、名前さんと擦り寄ってくる姿はとても可愛いのでつい甘やかすのだが…。今回は趣向を変えてきたらしい。

「急にどうしたわけ…。」

「…たまにはお返しをしようかと、というのは建前ですね。正直に言うと、この間街で男性に甘える女性を見ました。名前さんと重ねてみたら大変愛らしいという事に気が付きまして、私に甘える名前さんを見たいと思ったんです。」

「………あ、あそう。」

ダメですか?と首を傾ける司くん。だめじゃないけど、めちゃくちゃ恥ずかしい…!

「さあ、名前さん。」

どうぞ、とマカロンを差し出される。思わず生唾を飲む。美味しそう!でもなんだか、感じたことのない羞恥が…!痺れを切らした司くんは正面ではなく隣に回る。

「え、なに、やだ。」

「嫌だ、という顔ではないかと…。」

にこり、と冒頭のような顔をすると唇に優しく押し付けられるマカロン。

「どうぞ、召し上がってください。」

「………、」

意を決して軽く口を開けて咀嚼する。思った通りぼろ、と零れそうになるので慌てたが司くんが手を受け皿にしてくれて事なきを得た。

「美味しいですか?」

「とても。」

ぺろりと口の端についていたカスを舐めとると司くんがじ、と見ていることに気がついた。

「…?」

は、と我に返ったように私から視線を逸らした司くんは残りのマカロンを再び押し付けるようにして私に寄越す。あまりの勢いに司くんの指まで食べてしまった。驚いたような顔をした司くんはふ、と笑うと私の唇をなぞる。

「私の指は美味しいですか?名前さん、可愛いですよ。」

かあ、と顔が熱くなるのを感じるとバカ!とも言い返せない私はクッションを司くんに押し付けた。甘えるってなんだ!難しい!!そう足をじたばたさせる私を見て司くんは満足そうに笑った。