名前お姉様はとても優しい。もう1人の転校生、あんずお姉様とは違って少し抜けてるところもあるがそれが逆に人間味があって私は好きだった。お姉様の隣は居心地良く…
「名前〜!僕を膝の上に乗せてもいいぞ!ほらほら早くぅ!」
居心地良く……
「えへへ、名前は奴隷3号だね。一生養ってあげるからうちにおいでよ〜!」
居心地……
「あはは、ありがとう。桃李くん。」
「…くぁああっ!我慢なりません!なんで桃李くんが居るんですか!?今はお姉様と私が話をしてましたよね?」
「はあ?別に司だけの名前じゃないんだから僕が入っても問題ないでしょ?」
ばちばちと火花を散らす私と桃李くんを他所にお姉様はのほほんとクッキーをかじっている。気がついてくださいお姉様!そしてこの憎き桃李くんを追い払っていただきたい!
「二人ともほら、このクッキー美味しいよ。」
ぱっと桃李くんは視線を外すとお姉様の膝の上に座り直す。
「名前、食べさせて〜!」
可愛らしい効果音を立ててお姉様の方に上目を使う桃李くんにお姉様は目尻を下げた。うう、そんな顔、私にはしてくださったことがないのに!
「桃李くんはかわいいね。」
母親が子供におやつを与える光景に見えるそれに私は気が狂いそうになる。桃李くんばかりずるいじゃないですか…!私も…!私だって!お姉様に甘やかしてもらいたい!!
遠くから桃李くんを呼ぶ声が聞こえたところで思考が戻ってくる。
「げげ、弓弦だ!ばいばい、名前〜!またね!」
だっとかけていく桃李くんに手を振って彼がかじっていたクッキーをどうしたものかと眺めているお姉様に近づいて声をかける。
「お姉様、」
「司くん、食べる?」
始末に困ったクッキーを私に向けて首を傾けたお姉様に今度は声を詰まらせた。これは美味しい展開!しかしこれは桃李くんの食べかけ…!心の中で葛藤をするも無心になった私はぱくりとお姉様の手からクッキーを頂いてしまうことにした。
咀嚼しながら真横に座る。大変面白くない気分だった。桃李くんはしっかり甘やかされて私は残り物!これはまだまだ甘やかして頂かないと!と視線を向けたところでお姉様と目が合う。
「このクッキー、どこのかな。」
言葉の雰囲気から購入をしたいんだな、と理解する。これは恐らく生徒会で出されたものを桃李くんが持ってきたんだろう。
「持ってきた桃李くんか恐らく天祥院のお兄様がご存知でしょうから後で聞いておきますね。」
名前お姉様は私とクッキーを見比べるとへらりと笑をこぼす。
「ほんと?ありがとう。司くんは頼りになるね。」
「え、」
じんわりとその言葉が浸透するのを感じるが正直頭が追いつかなかった。頼りになる。
「…名前お姉様、私はお姉様のお力になれてますか?桃李くんよりも?」
「桃李くん…?」
そう呟いて ああ、と納得したような顔をする。どうせ張り合ってる中だからと結論付けられたんだろう。…間違ってはいない。
「うん、桃李くんはお世話しなきゃ!って感じだけど司くんはこれお願いしちゃおうかな〜、とか考えられるというか…。」
なんていえばいいかな、と照れくさそうに笑うお姉様を見て、ああもうそれだけでいいと満足してしまう自分が居た。
「これからも私をお頼りください!この朱桜司が全力でお姉様のお力になりますから!」
私が目の前に膝をつくとお姉様は驚いたのか目を丸くさせて数回ゆっくり瞬きをした。しばらく無言で視線をうろうろさせたあとほんのり頬を染め小さく微笑む。
「ふふ、司くんはかっこいいね。王子様みたい。」
お姉様の周りに花が出るのが見えた。王子様みたい。その言葉が反響するように胸に刺さる。ああ、なんて幸せなんでしょう。
ぽん、と頭に乗せられた小さな手に更に舞い上がったのは言うまでもない。