※2024年仁兎なずなさんバースデーの電話を聞いて思わず描きました
※あんずちゃんor≠あんずちゃん任意
※ネームレス

「昨日は急な電話ごめんな?写真整理してたらプロデューサーが目、つぶっちゃってて慌てて電話しちゃったんだ。寝る前とかじゃなかったか?」
「電話大丈夫でしたよ!写真の状態、私も全然気が付かなくてすみません」

返事をしながら昨日の事を思い出す。昨日写真撮ったあと、先輩ちゃんと確認してなかったっけ。そんなことより、と私は内心唸ってしまう。現役アイドルとツーショットってどうなんだ?ちょっとばかし関係者としての意識が足りないかもしれないなんていう小さな反省をしている横で仁兎先輩は楽しそうにどこで撮ろうかなんて言っている。私の気も知らないで呑気なものだ。

「天気もいいし空中庭園なんてどうだ?創ちんが言ってたけど今すごい花が綺麗らしいし背景にも困らない……♪そういえば嵐ちんもこの間SNSに上げてた写真も空中庭園だったな」

先輩はとにかく楽しそうだ。鳴上くんがチョイスした場所なら間違いはないだろう。ありがたく使わせていただこう。上階へ向かうエレベーターを待つ間はなんとなく気まずくて手先を弄ってしまう。手持ち無沙汰というやつだ。しばらくすると「お」と手を取られる。ぎょ、と握られた手を見ると先輩がしげしげと私の指先を見ていた。

「ネイルしたんだな。昨日は気が付かなかったけどすごく似合う!」
「あ、え、へへ」
「あ、いきなり触っちゃってごめんな……?」

仁兎先輩は私より少し背が高いだけなので目線が近すぎて少し逸らしてしまう。
私はなんの緊張をしているのだろうか。変に意識しすぎているだけだろうか。流石に取り直し要請は断るべきだったか?ぐるぐると思考が巡る。

「なんか難しそうな顔してるけどどうかしたか?」
「いえ、問題はありません」

大丈夫です!と大袈裟に手を振ると仁兎先輩は安心したようだ。

「実は無理やり誘っちゃったかなって心配してたんだ」
「え〜、そんなことないですよ」
「そっか。ならよかった」

空中庭園に出ると天気も良くて花のいい香りがしている。私が花粉症なら死んでいた。

「あ、多分あそこかな」
「この時期って何が植えられてるんですかね」
「創ちんなんて言ってたかな……。なんかかわいい名前の花だったんだけど全然思い出せない!う〜ん、王道だとチューリップとかか?」

周りを見渡すと確かにチューリップが固まって植えられている場所もある。しかし先輩が背景にしたいのは別の花のようだ。私にこだわりはないので先輩がお目当ての場所を探し当てるのを待つことにした。
まだ4月だというのに日差しが強い。あとで日焼け止め塗り直さないとなあ。

「あった!ここだ!」
「花の紹介カード刺さってますね。ポピーですって」
「それだ〜!ポピーか。うん、かわいい♪」

どうせ言っても「かわいくない」とかプンスコするのが目に見えているので満足そうな先輩の方がかわいい、とは言えずに黙っておく。
柔らかい風が吹いて細く美しい糸みたいな金髪が揺れて眩しい。一体何をどう使ったらこんな美しい髪ができるのか。脳内の斎宮先輩がなぜか誇らしげに「そうだろう、美しいだろう!」と私を笑っているので手で払う。

「この角度だと逆光にならないかな。一回撮ってみてもいいか?」
「テイクワンってやつですね」

腕まくりで近づくと「気合いの入り方がおかしくないか……?」と不審な人間を見る顔をされる。
蛍光灯じゃなく自然光。現役アイドル(女の子に間違われる程にかわいい)と加工なしツーショットをこれから撮るんですが?覚悟と気合いを入れない一般人の女がいたらぜひここに連れてきてほしい。と言いたいのを押し殺す。さっさと終わらせよう。誰かに見られたら気まずい。

「よし、撮るぞ〜」

に、と頬の筋肉が無理をする感覚に悲しい気持ちになる。頬肉が重いのか、久々の表情筋のお仕事でびっくりしているのか。絶対、後者であってほしい。
写真を確認していた先輩が首を傾げている。

「なんか表情固くないか?」
「見なくてもわかります」
「泉ちんが教えてくれたんだけどこうやってほっぺほぐしたりするといいらしいぞ」
「え」

あまりにも自然に頬をほぐされる。骨ばった手が私の頬をほぐしているこの状況。一体何!

「あ、ごめんごめん。友ちんたちにやるみたいな感覚でついうっかり」
「周りに誤解される事、気をつけてくださいね!?びっくりした〜!」

あはは!と笑う先輩の手は中々離れない。

「顎小さいな」
「顎はみんな小さくないですか?」
「みんなの触った事ないからわかんないけど」

よし。そろそろほぐれただろと先輩は再度指定の位置につく。

「ほら、プロデューサーも早く!」
「逆光じゃなかったか確認しました?」
「ばっちり」

やれやれ、と私が隣に落ち着くと仁兎先輩は小さく笑った。

「レンズ見てるか?」
「早く早く!頬筋の感覚やばいんで!あと三秒以内にシャッター押してください」

ブルブルする筋肉に悲鳴を上げながら懇願すると先輩は吹き出した。同時にシャッターも押したようだがなぜかツボってしまった先輩はしゃがみ込んで笑いのツボの浅さの回復に時間をかけている。

「失礼ですよ!?」
「あははっ、ご、ごめんって。でもプロ……、プロデューサーも悪い……っ!」

ヒーヒー言いながらやっと先輩は写真を確認する。私も恐る恐る画面を覗き込む。ぎこちない笑顔の私と弾ける笑顔の先輩が並んでいる。
少し落ち着いた先輩は写真を確認すると「これはこれでいいな」と満足したようだ。でしょうね。先輩はゴリゴリに盛れてますから。

「おれのわがままに合わせてくれてありがとうな」
「気が済んだのであれば私も安心してます」
「これどっちに送ればいい?プライベートの方に送っていいのか、ホールハンズの方がいいのか」

ホールハンズでいいですよと言おうとしたところで先輩は「いいや、プライベートの方に送る」と自分で決めてしまった。意外と押しが強いというか。
先輩は無意識かもしれないが選択肢を与えてくれているようでそうでもない。答えは大体先輩の中で決まっている。少なくとも私に対してはそうだ。基本害はないので特に口答えもしていない。

「はい、送信」
「ありがとうございます〜」
「待ち受けにしようかな」
「やめましょう!!いらない誤解が生まれたら困った事になるので!」

そうか?と言いたげな先輩にこっちが困ってしまう。先輩からしたらただの可愛い後輩なのかもしれないが一応女ではあるので大学のご友人とかメイクさんとか不意に見られた時に最悪彼女!?なんてことになったら大変な事になる。危機感を持ってくれ。

「いい写真なんだけどなあ」
「最高のロケーションではありましたね」

名残惜しそうに先輩は画面を暗転させると戻るか、と呟いた。私は残してきた仕事たちを思うとちょっと気が重いが仕方ない。

「しかし天気がいいなあ。プロデューサーはお昼食べたか?」
「え?まだですけど」
「じゃあこのままお昼一緒に食べないか?ちょうど天気もいいしピクニックみたいにしてさ」

み、魅力的なお誘い〜!!
しかし私にはのんびりピクニックまでしている時間はない。

「とても天才的な提案なんですけど実は仕事が立て込んでまして……」
「そっか、じゃあ今日は普通に食堂で食べよう。食べながらピクニックの日程もついでに決めるか?……プロデューサーが嫌じゃなければだけど」
「嫌とかはないですね」

これだもんなあ。かわいい顔でしゅんとされるのに弱すぎる。嫌でも嫌とは言えない。まあ本当に嫌ではないんだけど。

「そろそろ食堂もまばらになる時間ですしちゃっちゃとご飯食べちゃいましょ!」
「わ、急に押すな!危ないだろ〜!」

わあわあ言いながらエレベーターに乗り込む。横で文句を言っている先輩をよそに私は今日の日替わり定食に思いを馳せていた。

「聞いてるのか?」
「はい」

疑わしげな先輩の顔がかわいい。

「今日の日替わりは焼肉定食らしいですよ」
「絶対話を聞いてなかった奴の話題の振り方だな」

あはは、と先輩が笑う。機嫌を損ねたのではなくて良かった。
食堂に着くまでの間、ピクニックの開催時期について議論する。梅雨前には絶対やろう!と力強い先輩に私も笑ってしまった。

「梅雨といえば、梅雨になる前に傘を丈夫なのに買い換えたいんだよな。プロデューサー、おすすめの傘とか知ってるか?」
「え〜、全然わからないです。いつでも私はビニール傘なので……」
「ここ数年の夏場はゲリラ豪雨みたいなのも多いしプロデューサーも丈夫なの買っておいた方がいいんじゃないか?」

確かに……。

「今は色んなのあるし今度一緒に見に行かないか?」
「いいですね〜。しかし、なんだか仁兎先輩とは約束ばっか増えていきますね」
「気がついちゃった?」

え、と先輩を見るとなんだかいたずらがバレたみたいに笑っている。

「ほら、余計な事なんか考えずにまずはお昼食べちゃおう♪」

考える暇を与えてくれない先輩の意図を読もうとする前に私の意識は本日の日替わり定食に向けられてしまった。