※短編から三日後ぐらいの話

昼飯をたらふく食べた俺はうつらうつらしていたのだろう。パン!と目の前でした破裂音に俺は心臓を飛び上がらせる。

「うわ!!」
「やっほ、衣更くん。おねむのところすまないね」
「驚かせるなよ、名前」

死んだかと思った、と続けると名前はあまり悪いと思ってなさそうな顔でごめんごめんと言った。こいつはなんかこう言うところがあるんだよな。憎めない。あれから名前は少し吹っ切れた顔をしている。
こいつは自分をパッとしないと言っていたが俺たちはあんずと名前を比べたことがそもそもない。まさか廃業を考えるほど悩んでいたなんて知らなかった。気がついてやれなかったことにまだ少し罪悪感があるので名前が笑っているのを見ると安心してしまう。

「結局進学はやめたんだよな?」
「うん。なんかお騒がせしました。あれだけはっきり進学します!とか言っといて恥ずかしい気もするけどねえ」
「あんま溜め込むなよ〜」

ごめんね、と言った名前は今度はきちんと申し訳なく思っているようだ。反省してます、とおでこに書いてあるのが見える。
進路を聞いた俺は悪いなあと思いつつもあんずやみんなに話してしまった。名前も優秀なプロデューサーだ。しかもアイドル達からの信頼もある。名前を失うのはかなり惜しい。
特にスバルはショックを隠しきれないようだった。何も考えていなくて人類全員大好き!みたいに見えるけど線引きするのは結構早い。やる気のないやつには最初から興味もない。生半可な気持ちのやつにも割とドライだ。名前のことも正直、そんな状態ならやめたらいいよ、ぐらいは言うと思ってたのだ。

「名前のやる気を取り戻そう。もう一回、俺たちを好きになってもらおう」

はじめにそう言ったのもスバルだ。あんずにくっついてるのは何回も見たことあるが名前にベタベタしてるのはあまり見たことがなかったのでそこまで言うと思っていなかったのだ。本当に意外で一瞬返事が遅れてしまった。
結果、名前はこうして進路を変えてくれたわけだけどかなり望み薄な作戦だったよなあ。本当に成功してよかった。

「なんか衣更くん気持ち悪い顔してるよ」
「おい、失礼だな」
「あはは。ああ、そうだこれ提出しにきたの」

報告書か、とそれを受け取って解散した。
はあ、とペラペラめくっていると窓の外が騒がしい。覗き見ると名前がスバルに絡まれているようだ。絡むといってもベタベタする感じではない。耳を澄ますと困ってることはない!?と詰めているようだ。
スバルは名前に対して少し過保護になった気がする。こまめに連絡しているみたいだし目をかけているんだろう。名前は大丈夫だって〜!と返事をしているようで二人の雰囲気はかなり穏やかだ。
名前は少しして俺に気がついたようでスバルに何か声をかけたあと手を振ってきた。元気だなあ、と手を振り返してスバルの方を見てなんだか違和感を感じる。
名前をじっと見ている。数秒のことだった。その後すぐにこちらに視線を向けて「サリ〜!!」と両手でアピールしてきた。なんだ。この違和感。名前を見る目があまりにも、スバルらしくないというか。
執着に似た何かを感じたがまさかな、と首を振った。しっしっ!と二人に戻るように伝える。スバルが名前に手をとって校舎に入って行った。
ああ、なんだろう。この違和感の正体は。