※主人公は瀬名のファンです


−晴天、とはこの空を呼ぶにこそ相応しい……。
そんなことを考えながら私は大きく伸びをした。徹夜明けの空は何だか目の毒でもある。痛い。

「あ、いたいた!お〜い!」

ベランダの下から聞こえた声を幻聴だと思いたい私は程よい力加減で眉間を押して念仏を唱えた。幽霊であれ……。

「なあ!お〜い、聞こえてますか!おはようございます!……無視すんな!」

「………いい天気だなあ……」

未だに下でごちゃごちゃ聞こえるけど私はそのまま部屋に入った。パソコンの画面を覗き込んで再度誤字脱字の確認をした後に仕事相手に提出をした。どうか通りますように……!
さあ寝るか、と布団を捲りあげると大音量のピンポーンが鳴り響いた。

「………、」

二回、三回、と音が重なるので私はイライラと玄関の方を睨んでしまう。許せる?こんなの!
何回も連続で押してくる奴なんて一人しかいない。普通の人間は二回目で諦めるはずだ。だとしたらもうこれはあのオレンジ頭のネジが外れまくってるアイツしかいない。無視したい!でも一生鳴り続ける気がする……。
はあ、と思わず漏れた息をしまい直して私はインターホンに声をかけた。
入れて!という声に盛大にため息を吐いてから扉を開けてあげると転がり込むようにして影が入って来るので思わず顔を顰めてしまう。

「今何時だと思ってますか?」

「10時だけど…?別に早い時間じゃないじゃん。おれは向こうを朝6時に出てほぼ一日空の上を移動してきたんだぞ……!」

「そうなんですね。お疲れ様で〜す!ところでなんの用……?」

何故か怒っている月永さんにはいはいと笑いかけながら内心こちらも怒り狂っている。いや、私は徹夜で仕事をして今から寝るところなんですけど……?そもそもいつもこちらの予定も確認せず押しかけてくるのは月永さんだ。私が怒られる筋合いは無いはず!

「また一緒に仕事したいから案件持ってきた。ほい、Knightsの新曲!歌詞書いてくれ!」

「え!それって瀬名くんも歌う?」

「………歌うけど…」

む!と月永さんは何かぶつぶつ言い始めた。私はそれを一旦置いておいて瀬名くんに歌って欲しいワード集を取り出すとどうしよっかな〜と眺める。とりあえず曲聴いてからかな……ふふふ。

「言っておくけどな、おまえのそのノートに書いてあるやつ全部おれが歌うから!」

「なんで……?」

「いっつも思うけどなんで分かってくんないの?まあもう慣れたけど」

 まるで私が悪いみたいな顔をされたので心外だな……と頭の隅で思う。しかしもう頭が回らない。眠気が限界でやばい。

「私寝るので月永さん後でデータ送ってくださいね」

「え!ちょっとここで寝るなよ…!」

 月永さんに返事をしようとしたけど口も目も機能しない。月永さんがワーワーと騒ぐ声が遠くに沈んでいった。