※真があんずちゃんにときめく描写がありますが女性に慣れていない故の些細なときめきです。

気が進まないなあ。
僕はみんなとお店の前に立ちながらうんざりとしていた。なぜならこのお店は例のあの子の家だからだ。なんで知っているかって?前に見た紙袋にお店の名前が書いてあったから……。本当にただそれだけ!調べたとかじゃないから!


現在、あんずちゃんの荷物持ちとしてTrickstarの全員がこの場にいる。衣装の材料を最近はここで購入しているようだ。品揃えがいいし相談に乗ってくれる人もいるんだあ、と控えめに笑うあんずちゃんの姿にドキドキしたのはつい先程の話だったりする。

「あれ〜?ウッキ〜、なんか元気ないじゃん!どったの??」
「え、あ〜、大丈夫!なんでもないよ、心配かけてごめんね!」

はいろはいろ、と明星くんの背中を押すとなぜかジャレついてくるのでバタバタしながらお店に転がり込んだ。

「いらっしゃいませ」

落ち着いた声の店員さんが迎えてくれたのでそちらの方へ視線を向けてギョッとする。いつも僕に飛びついてくるあの子だったのだ。僕を見つけた瞳が一瞬でキラキラと輝いて思わず身構えたが彼女はす、と視線を下に向けて会釈するだけに留まる。
僅かな違和感にもやりとした。

「こんにちは、今日も相談に乗ってもらいながら生地を決めたいのですが……」

あんずちゃんの言葉に頷くと彼女はサッとこちらに向かってきた。今度こそひっつかれる!?と体が強張ったが僕に視線をやることなくあんずちゃんからメモを受け取り真剣な表情で読み込み始めた。

「今回のイメージとしては何か具体的なのはありますか?」
「夏が一番のイメージです。その他はまだ決めかねていて……」
「この衣装を着られる方はこちらの方達ですか?」
「そうです」

あんずちゃんに言葉に頷くと僕達を一通り眺め、時折メモにも視線を落として小さく何か呟いてはあんずちゃんに確認をとるなど立派に仕事をしている。
僕の知らない姿に目がチカチカして不思議な気持ちになった。それもそうだし知らない人です、みたいな態度にすっごいモヤモヤする〜!なんていう僕の気持ちをよそに話は進んでいるようだった。

「彼らのイメージ的にサテン系はあまり合わなそうですね。薄い普通の生地の方が合うかもです。厚い生地はステージでは疲労の元ですし……。造花とか入れて生地の薄さから目をそらすのはありかもですね。造花もうちにはあるのでこの辺のを取り入れてもいい、かな……。ああ、でもこの部分を和服に寄せるならこっちに少しサテンっぽい生地を混ぜてもいいかもです。涼しさが出ますよ」
「なるほど……あとこの色合いでこの部分を赤にするのは変だと思いますか?」
「まったく思いません!とてもいいと思います。あんずさんはいつもセンスが良いのでわたしも勉強になります」

二人の会話を聞きながら頬をかく。いつもの彼女との面識は僕しか無いので他の皆は彼女の奇行は知らない。明星くんなんて「かっこいいね」なんて氷鷹くんに耳打ちしてるし!全然違うのに!!!
いつもはこう、もっと目をくりくりさせて僕に奇襲をかけてきて楽しそうに笑って少し幼く見えて………。

「じゃあこの生地とこの生地をお願いします」

いつの間にか話は終わっていて皆がゾロゾロ荷物を持って出ていく中、先に帰ってて〜と声をかける。
荷物持ってあとからすぐ戻るよとは言ったけど衣更くんがまだ持てるから、と僕の分も持って行ってしまったので身軽になってしまった。
ぐっと軽くストレッチをして僕は店の中に戻った。


「……あれ!帰ったんじゃなかったんだ!?」
「……他のみんなは帰りました。…あの…なんで今日いつもと違ったんですか?今もなんとなく違うし……別にいつもの方がいいとかじゃないんだけど気持ち悪いっていうか…」

目の前の女の子が全然違う人に見える。頬杖をつきながら僕を面白そうに眺める姿に居心地が悪くて腕を摩った。

「今日はなんでいつもと違ったの…?え〜、遊木きゅんわたしのこと気になるかんじ?!」
「ち、ち、ちがいます!」

む、としているのが伝わったのかごめんごめんと軽い調子で謝ってくる。

「今日はっていうか店にいる時はずっとこんな調子だよ。クレーム入ったことあってさあ……。悲しいよねえ……。それ以来ずっとお店にいる時は心を殺してるの。遊木くん見えた時うっかりこのカウンター乗り越えて抱きつきそうになったけど口の中噛んで堪えたんだからね!」
「そ、そうなんだ….…大変でしたね…?」

ほんとだよ〜と言いながらぐ、と背を伸ばす姿がいつもの様子に近くてほ、とする。

「遊木くん」

カウンターの裏側で何かを探しながらちょいちょいと手招きするのを見て警戒するが「何もしないよ〜…今店の中だし怒られたくないし?」という彼女の言葉を信じて近寄った。

「これ、あげる」

手のひらにコロコロと沢山の飴の袋が落とされる。え、と彼女の方を見るとにこりと笑いかけられた。

「またきてね」

それはそれはゲームの中の魔女のようなミステリアスな笑顔だった。