「遊木くん!!!!」

「うわ!?」

愛らしい後頭部を見つけてしまった私は抱えていた布が入った紙袋を放り出して飛びかかった。あ〜ん、一週間ぶりだよお、可愛いよお!!羽交い締めにする形で飛びかかったので少し地面から足が浮いてしまう。

「だ、誰か〜!助けて〜!」

遊木くんが騒ぎ出したのでさっと離れて走った時に乱れた髪を整える。好きな男の子の前では少しでも良く見てもらいたいのが乙女心というものです。ふふふ、と思わず声が漏れた。
油の無い機械みたいな動きで後ろを振り返った遊木くんは困ったみたいな顔で口を開いた。

「あの、こういうのやめてくださいって何度も言ってるじゃないですか…。僕、一応アイドルなので…。」

「それ、何度も聞いたんだけど私あんまりアイドルとかわからないんだ。ごめんね。学校の外ではやらないよ!ちゃんと誰の気配もないの確認してから飛び出してきたし。許して!嫌わないで!遊木くんが好きなの!」

「あ〜…。はあ。」

眼鏡の奥がすう、と冷たくなっていく。ひゅ〜、痺れる。

「で、今日もおうちのお使いですか?」

「うん、頼まれてたのをなんだっけ。い、斎宮…、なんとかさんに届けにいくんだ。この間たまたまうちのお店に来てくれたらしいんだけどね、いっぱい布買って帰ったらしい。私の家、結構珍しいの仕入れてるらしいんだよねえ。今、手芸部…?を目指してるんだけど同じところを二回通ってきたから多分迷子ね。」

「はあ。」

遊木くんも布いる??布じゃないのもあるよ!お茶とか〜、あと飴もある!と私が言っても遊木くんは返事をしない。どこか遠くを見ている。遊木くん、私はここやぞ。

「ちょっとお〜!!!またあんた!??」

「お、この声はイズミサンじゃん。」

「あ〜…。なんでこんなめんどくさい…。」

ギュン!!!!というスピードでこちらに向かってくる影に私はしっかり仁王立ちで迎えようとしたのだが腕を引っ張られる。遊木くんは面倒なのが増えることより単体の面倒を相手にすることを選んだようだ。以前イズミサンと盛大にバトって知らない生徒に囲まれ(遊木くんが)大変なことになったのだ。私的には遊木くんに関してのディベートができて有意義だったのだがイズミサンは今にも血管がブチ切れそうで笑ったなあ。
私が走ってきた方向に2人で向かうと布が入った紙袋が転がっている。

「はい、ちゃんと紙袋拾って。斎宮先輩の居場所知らないんだよね?」

「あ、うん。」

「仕方ないから案内してあげる。泉さんに追いつかれないように走って。」

僕も走るの得意じゃないんだけどね〜、と軽くアキレス腱を伸ばした遊木くんが走り出した。好きな人の背中を追いかけられるこの状況。最高では!?突然だが私は走るのは得意だ。なので、この背中を追いかけるなんて朝飯前である。任せて欲しい。紙袋をぎゅ、と抱きしめると遊木くんは諦めたように走り出した。清潔な香りが私の方に流れてきて瓶を持っていないことを悔やんだ。

「うう、背中に嫌な気配がする〜ッ!」

「遊木くん〜、背中は任せて。ビックラブ。」

「ンい〜!!!?」

まだ遠くからイズミサンの恨みがましい声が聞こえてくるので遊木くんの悲鳴と合わせて大声で笑ってしまった。