「ん……っ…」
「よぉ、調子はどうだ?」

ギシリ。使い込まれた木製のベッドが鈍い音を立てながら深く沈んだ感覚で目を覚ますと、よく見慣れた赤い髪の毛が目に入った。彼がニッと笑って首を傾げた瞬間、センターで分けた前髪がサラリと流れた。
天窓から差し込む陽光、そしてドアを隔ててくぐもって聞こえる船員達の賑やかな声から、もう昼間なんだろうと考えられた。

「シャンクス……、う、痛ッ…!」

ここは私の部屋で、もちろんこれは私のベッドだ。どうして彼がここにいるのだろうか。とにかく起き上がろうと頭を持ち上げると、吐き気がするほどの頭痛に、自分の頭は再び枕に沈んでしまった。
まだダメか、と苦笑いを浮かべて呟いたシャンクスは、私の頬をするりとひと撫ですると、毛布を肩まで引き上げた。

「お前、昨日、酒飲み過ぎてぶっ倒れたんだ。お前が酒に弱いってことは皆知ってる。どうして無茶なことをした?」
「それ…は……、」

彼の言葉で蘇った昨夜の記憶。思い出すだけで恥ずかしくなる出来事に、私は言葉を曖昧に途切らせた。
きっと病人である私を気遣っているのだろう。それは?と、シャンクスは至極落ち着いた柔らかな声で問いただした。けれど、それとは正反対に、怖ず怖ずと見上げた彼の瞳は、背筋がゾッとするほど鋭いものだった。四皇の一人として畏れられる彼に、嘘など突き通せるわけがない。

「…船の皆に、理想の女は何って聞いたの。そしたら、誰かが酒に強い女だって言ったから…」
「だから、お前も飲んだのか?」

ぽかんとシャンクスが目を見開いて、こちらを覗き込んだ。顔に穴が開いてしまうのではと思うほどに見つめられてしまうと、恥ずかしくてどうにも居心地が悪い。私は、無意識に彼から目線を逸らしていた。ガキだって、彼にそう思われてしまったのかもしれない。

「だって、早くシャンクスに釣り合う大人の女になりたいんだもん…」
「ったく…」
「お酒だけじゃないよ…!あとはね、料理が上手な女、強い女、胸がデカ…っや、ん!!」

まだまだ続くはずだった海賊が選ぶ理想の女ランキング。けれど、私の言葉は全て、シャンクスの唇に飲み込まれてしまった。
顔の横に置かれたゴツゴツした手と、私の頬をくすぐる赤い髪の毛、触れるとちょっぴり痛いあごヒゲ、そして、ふんわりと私を包み込んだ彼の香り。二日酔いのせいなのか、それとも彼のせいなのか。どちらのせいかわからないけど、これは全部シャンクスなんだ、と思った瞬間、世界が回っているみたいに頭がクラクラして、身体の中心から物凄く、熱い。

「んっ…ふぁ…、」

送り込まれる彼の熱い吐息と唾液を喉を鳴らして必死に飲み下した。心はもっとシャンクスが欲しいと叫び続ける。けれど、身体は素直に酸素を欲しているらしく、苦し紛れに彼の衣服をきつく握り締めていた。
それに気付いたのか、惜しむように唇が離されて、私は大きく息を吸い込んだ。肩で小刻みに息をして、余裕が無いのは私だけ。やっぱりシャンクスは大人で、私はまだまだ子供なんだろう。そう思いながら涙で滲んだ視界で見上げたシャンクスは、困ったように笑って、ばーか、と呟いた。

「ん…、」
「肝心のおれに質問しなきゃ意味ないだろ?」
「え…?」
「例え、酒に弱くても、料理が下手でも、戦えなくても…、」

胸が小さくても、と何だか他の言葉たちとは違って、私をからかうようにニヤニヤと笑いながら付け足すシャンクス。ムッとした視線を投げつけると、彼はとぼけたように肩を竦めた。

「俺の理想の女はお前だ」
「っ……!」
「だから、お前はそのままでいい」

シャンクスは握りしめた私の手の甲に、こちらが恥ずかしくなってしまうリップ音付きの口づけを一つ落とすと、大人しく寝てろよ、と耳元で囁いて部屋を出ていった。
こんなにドキドキさせられてしまったら、大人しく眠れるとは到底思えない。

「もう…、シャンクスったら…」

私は小さく溜息をつきながら布団に潜り込むと、彼が口づけをした手を、もう片方の手で握りしめた。彼の唇が触れた部分だけ、なんだかほんわりと温かい気がした。私は、まだまだシャンクスには敵わないかもしれない。けれどいつの日か、私だってシャンクスの余裕を壊してやりたい。なんて、ちょっとした野望を抱きながら、私はギュッと目を閉じた。


ありのままでいてくれよ
無理に変わる必要なんて、変える必要なんて、無い。


Fin.
企画サイト海賊だって様に提出。
素敵な企画を立ち上げていただきありがとうございました!

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