「あの教授ほんと鬼! 悪魔! ちくしょうっ!」
図書館で見つけた資料を山積みにして、キーボードが壊れそうなほどの速さで文章を打っていた。
ああもう、一週間で5000字のレポートとか鬼畜すぎる。画面を見つめすぎたせいでぼやける視界を目薬でいたわりつつ、もしかしたら終わらないんじゃないかって恐怖と戦っていた。
やっと半分書き終えたというところで、鞄にしまっていたスマホが震える音がした。ぐちゃぐちゃの鞄の中からスマホを引っ張り出すと、画面には大きく「赤司征十郎」と表示されていた。
今は13時。まだ学校にいるはずだというのに一体なんの用だろう? 図書館内で通話するわけにもいかず一旦外に出た。その間ずっとコールし続けているのだから、よほど大切な用事なのかもしれない。
「もしもし?」
『今、暇だろう?』
「はい?」
『実は家に部活で使用する大事な書類を忘れてしまってね。リビングの机の上に置いてあるはずだから今すぐここへ持ってきて欲しい」
「えっと、今、大学にいるんですけど……」
『大事な書類を忘れてしまったんだ』
「それはさっき聞きました」
『ならわかるだろう? 今すぐ持ってきて欲しい。主将ともあろう者が皆に迷惑をかけることはできないからね」
「だから、私は今大学に――」
『それじゃ校門前に着いたら連絡して』
「切られた……」
通話終了の文字が表示されたディスプレイを呆然と見つめた。
この仕事を始めて一週間。赤司くんは年齢のわりに紳士で優しい人だと思っていた。しかし、ようやくわかった。初めて会った時に感じた危機感は間違ってなかったんだ。さっきの通話に見られた横暴さ。たぶんきっと、あれがあの人の本性……!
レポートはまだ残ってるし、なんか命令された気がして、あまり気が進まない。しかし、彼に雇ってもらっているという事実が鎖となって私の首を絞めた。