今朝の出来事は、たまたま。そう、いわゆるアクシデントだと思っていた。
それなのに、お掃除も、お洗濯も、全部全部、私が始めようとするまえに赤司くんが半ば無理矢理やってしまったわけで、そろそろアクシデントという言葉では片づけられなくなってきました。
ということで、今はせめて夕飯作りは私がやらねばとキッチンを死守している所です。
「僕はこれから夕飯を作る。そこを退いてくれないか?」
「だ、ダメです……! ここは譲りません!」
「なぜ? ここは僕の家だろう? どう使おうが僕の勝手だ」
「う……」
赤司くんは昨日から変わらない冷たい目のまま私を見下ろした。
怖くて思わず後退りしてしまいそうになる。それをぐっと堪えて赤司くんを見返すと、彼は溜息をつきながら私の肩を掴んだ。
「退くんだ」
「っ…………!」
赤司くんが私を押しのけてキッチンに入ってしまった。赤司くんのその手に力がこもっていたわけでもないのに、涙で視界がぼやける。
痛い、痛い。悔しくて、悲しくて、わけがわからなくて、心が痛いんだ。
「私がいる意味ないじゃないですか……」
ぽろり、と涙の粒が頬を伝った。
一度溢れ出した気持ちを止めることなんてできなくて、脳みそで吟味する暇もなく言葉がどんどん口から出ていく。
「私に悪いところがあったのなら教えて下さい! 赤司くんは一を聞いて十でも百でも知ることができるすごい人なんだって知ってます。でも私は違うんです!」
「…………」
「昨日の質問の意味も、今日になって突然私を避けるようになった原因も、私には何一つわからないんです……!」
我ながら情けないなぁと思う。自分よりもずっと年下の男の子にこんな風に当り散らして何になるって言うんだろう。
私は手の甲でぐっと涙を拭って前を向いた。
「ごめんなさい。一週間お仕事をお休みさせてください。ここに居たくないんです……」
「わかった。好きなだけ休むといい」
止めて欲しかった、とまでは言わないけど、ほんの少しでも悲しそうな顔をして欲しかったのかもしれない。
料理本を見つめたまま言い放たれた言葉に、拭ったはずの涙がまた浮かんできた。
ご主人様と喧嘩