「あ、もうこんな時間……!」

名前と玲央達は相性が良かったらしい。随分と盛り上がった会話の最中に時間に気付いた名前は慌てたように立ち上がった。

「今日は実淵くんと葉山くんもご飯食べていくんだよね? それなら、夕食の材料を買い直さないと。赤司くん、ちょっと出かけてきますね」
「ああ」

パタパタと鞄を肩にかけてリビングを出ていった名前を見送る。
彼女の気配が完全に消えた途端、紅茶のカップをソーサーに戻した玲央が「さて、征ちゃん?」と真面目な顔で僕を見た。

「なんだい?」
「あの子のこと、一体どういう風に思っているわけ?」
「あ! それ、オレもすっげー気になってた!」
「どう、と言われても。あいつの作る料理はとても美味しいよ。だから、きっとお前たちも気に入るだろう」
「もう! 私はそんなことが聞きたいんじゃないの!」

そう言った玲央はむすっとした表情で腕を組む。

「あの子と暮らし始めて一か月経ったんでしょう? その間に何もないわけないじゃない! それに、さっきあの子が部屋に戻ろうとした時の征ちゃんの態度……あれは一体どういう意味があったのかしらね?」
「…………」
「ちょっとレオ姉ー。赤司が困ってんじゃん」
「うっさいわね。あんたは黙ってなさい!」
「むー」

嬉々として首をかしげる玲央と、もう飽きてしまったらしい小太郎を交互に見た。困ってるつもりはない。が、返答できないのも事実だった。

「自分でもわからないんだ」
「えー! 赤司にもわからないことなんてあんの?!」
「だから小太郎は黙って! それで? わからないって何がっ?!」
「今日のことだけじゃない。名前といると自分が自分じゃない、とでもいうのかな。無性に甘えたくなるんだ。だが、その理由は僕にわからない」

自分に問いかけるように呟いてから、ふと玲央達を見ると、ぴたりと動きを止めてこちらを凝視していた。

「ん……? なんだ?」
「征ちゃん……それはなんていうか、答えはわかってるも同然じゃないかしら?」
「え、レオ姉わかんの? オレ、全然わからないんだけど!」
「はぁ……。小太郎は放っておいて、征ちゃんにもこんな可愛い部分があったなんてねぇ……」

うふふ、と不気味に笑う玲央の真意はよくわからない。
ただ、僕にわからないことが玲央にはわかるということが気に食わなかった。

「ね、征ちゃん。征ちゃんはあの子のこと好きなんでしょう?」
「…………」
「えーーーー!! マジで? 赤司はあの子のこと好きなの?!」
「小太郎、あんた本当にうるさい。部屋から追い出すわよ?!」

 僕があいつのことを好き? 玲央に指摘された可能性を僕は他人事のように聞いていた。

「その顔だと、まだ実感がないみたいね。そうだ! 2人きりになった時にでも、自分のことをどう思っているのかあの子に聞いてみたらいいんじゃない? もしあの子が征ちゃんのこと好きって言ってくれたら、すごく嬉しいって感じると思うから」
「ふむ……。わかった、やってみよう」

 こんなにも楽しそうな玲央は初めて見た。
 玲央の言う質問ごときで僕の心情に変化があるなんて思えないけれど、自分の可笑しな行動を放っておくことも躊躇われる。
 だから、今夜にでも例の質問を投げかけてみよう。そう決めながら、紅茶のカップに口を付けた。

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