合宿最後の夜。この瞬間だけは厳しい練習を忘れてみんなでバーベキューを楽しんだ。
民宿近くのキャンプ場は川の近くにあって、今日はオレたちの貸切状態。だから、みんな余計にテンションが上がっているのかもしれない。
やたらバーベキューの仕切りが上手い森山先輩に、女の子にバーベキューの串を手渡されただけで顔を真っ赤にしてしまう笠松先輩。早食いで女の子の気を引こうとする早川先輩。そして皆を優しく見守る小堀先輩。
そういえば、焚火に照らされた先輩たちの顔は、なんだかいつもと違っているように見えた。上手く表現できないけど、越えるべき存在として遠く思っている人達の、年相応な素の部分が垣間見えている、そんな感じ?
「黄瀬、この合宿が終わったら可愛い子揃いの合コンをセッティングしてくれるか?」
「はぁ……? 何言ってるんスか、森山センパイ」
やっぱり森山先輩は通常運転だ。
ちょっぴり呆れながら先輩を見ると、森山先輩は片手に数本の線香花火を持っていて、それをニヤニヤと笑いながらオレに差し出した。
「これは……?」
「もし、オレのためにセッティングしてくれるというのなら、礼として名前ちゃんと2人きりの線香花火をセッティングしてやろう。ひと夏の思い出にもってこいのシチュエーションだと思わないか?」
「森山センパイ……!!」
これ以上、オレと森山先輩の間に言葉は必要なかった。
視線だけでお互いの言葉を理解し、固い握手を交わす。契約は成立だ。
「オレたちは向こうで花火をしてるから、お前はこれを」
森山先輩はそう言って手にしていた線香花火とポケットにしまっていたロウソク、マッチを手渡す。
「おーい! 名前ちゃーん! 黄瀬が話があるってさー!」
「森山センパイ、感謝してるっス……!」
去り際に背中を強く叩かれる。それが「頑張れ」って言ってくれているみたいで、後に残る微かな痛みが心地良く感じられた。
森山先輩と入れ違いに小走りでオレの元にやって来た名前先輩は「なぁに?」と首をかしげてオレを見上げた。
「その……、線香花火……しないっスか? 名前センパイと話したいこともあるし……」
心臓がドキドキして、唇が微かに震える。赤くなる顔を隠すように指先で頬を掻くと、少しだけ緊張が紛れる気がした。