合宿も3日目。明日の午後に帰ることになっているから、こうやって集中して練習できるのもあと少しだ。それと、名前先輩と過ごせるのもあと少し。
 普段よりもたくさん先輩と話すことができて嬉しかったけど、想像してたよりもオレと先輩の距離は近づかなかった……と思う。
 今日も体育館には笠松先輩の怒鳴り声が響いている。もちろんちゃんと練習しているつもりだけど、オレの目は自然と名前先輩の姿を探していた。

「あ、いた……」

 ちょうど体育館に入ってきた名前先輩は、オレたちのために用意してくれたドリンクボトルを運んでいた。一本だけならなんともないけど、あれだけの数を運ぶとなると相当重いはず。代わりに運んであげたいけれど練習を放棄することもできなくて、ただただ先輩を見守っていた。
 ああ、もう、あんなにヨロヨロしちゃって……。でも、ちょっぴり辛そうに眉を寄せるセンパイも可愛いっスけど……なんて思っちゃダメだろオレ!
 でも可愛いのはまぎれもない事実だ。そういえば昨日の先輩。あれは一体なんだったんだろう。あそこまで動揺した先輩は見たことがなかった。
 少しはオレのことを男として意識してくれたのかなって、そんな期待がどんどん大きくなっていく。

「って……センパイ……?」

 視線の先にいる先輩の様子がおかしかった。既にドリンクを運び終えているのに、体育館の出口に向かう先輩は今でもふらふらと覚束ない足取りをしている。
 もしかしたら体調が良くないのかもしれない。そう思った瞬間、先輩の身体ががくりと床に崩れ落ちた。

「センパイっ……!!」

 無我夢中で駆け寄った。抱き起した先輩に意識はなくて、身体を揺らしながら名前を呼んでも応えてくれなかった。
 どうしよう。どうしよう。どうしよう。先輩の顔色は真っ青で、力なく床に垂れた腕がますます不安を煽る。

「黄瀬! どうした?!」
「か、笠松センパイ……、名前センパイが倒れて、オレ、どうしたら……っ!」
「しっかりしろ、馬鹿!! 黄瀬は今すぐ名字を涼しい部屋に連れていけ! オレは何か身体を冷やせるもん探してくるから!」
「は、はいっス……!」

 笠松先輩の叱咤にようやく我に返った。
 未だ意識の戻らない先輩を抱き上げると、オレはできる限りの速さで体育館を後にした。
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