「えっと……ロウソクをここに立てて……、マッチはここに……」

 箱の側面にシュッとマッチを擦って火を点ける。それをロウソクの芯に近づけると、ゆらゆらと風にゆれる小さな明りが、ロウソクを囲むようにしゃがんだオレと先輩の顔を照らした。

「はい、センパイの線香花火。火を点ける向き間違えちゃダメっスよ?」
「ふふ、大丈夫。間違えないもん」

 くすくすと笑った先輩が線香花火の先をロウソクに近づける。細長い火薬部分が丸まって光の玉ができると、パチパチと音を立てて火花が散った。
 線香花火を長く保たせようとするせいで、オレも先輩も自然と口数が減っていく。オレは花火の音に耳を澄ませながら、ちらりと先輩を盗み見た。
 俯くからと髪の毛を耳にかけているせいで、普段とは少し大人っぽいような印象。目を伏せているから、なおさらそう感じるのかも。

「黄瀬くん?」
「な、なんスか?!」
「黄瀬くんの線香花火もう終わっちゃってるよ?」
「え……? あ、ホントだ。いつの間に……」

 オレの言葉と同時に、先輩が手にしていた花火の火もポトリと地面に落ちた。
 私のも終わっちゃった、と先輩は名残惜しそうに笑う。

「なんかさ、こうやって線香花火をしてると、青春って感じがしない?」
「青春、っスか……?」
「うん、青春! 私はどこか部活に入ってるわけじゃないから、合宿なんて初めてだったの。最初はちゃんとお手伝いを頑張らなくちゃってひたすらプレッシャーを感じてたんだけど、こうやって皆と過ごしている内にもっとみんなの役に立ちたいって、まるで本当のマネージャーみたいに楽しんでる私がいたんだ」

 ぼんやりとロウソクの火を見つめながら言葉を紡いでいた先輩は、ふとオレを見ると「今日は倒れて迷惑かけちゃったけど」と肩をすくめた。

「だからね、明日で終わりなんだって思うとすごく寂しい、かも……」
「センパイ……」
「ごめんね。なんだかしんみりさせちゃった。線香花火のせいかな?」

 もう火のついていない線香花火をバケツに投げ入れて、先輩は新しい線香花火を手に取ろうとする。オレはそれを阻止するように先輩の手を掴むと、自分と一緒に先輩を立ち上がらせた。
 目を真ん丸にして驚く先輩が、どうしてと尋ねるようにオレを見上げている。

「センパイ、しんみりするのはまだ早いっスよ?」
「え……」
「合宿はまだ終わってないんス。だから、今からバスケ部の皆と、もっと、もーっと楽しい思い出いっぱい作ろ?」
「う、うん……?」
「つーことで! 向こうの森山先輩たちと合流っスよ!」

 キョトンと首を傾げる先輩の手を握ったまま、少し離れた場所で輝く手持ち花火の鮮やかな光を目指して走り出す。
 今はきっと、先輩を独り占めしていい時じゃない。
 皆でバカみたいに騒いでたくさん笑って。その思い出がこれから受験勉強に励む先輩の力になれたらいいなって、そう思う。

「黄瀬くん、ありがと……!」
「へへ、どーいたしまして!」

 オレの後を走る名前先輩の笑顔がくすぐったい。その笑顔のおかげで、こうして良かったんだって心の底から思えた。

キミと過ごす夏はまだこれから
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