顔を上げると、悲しくなるくらい広くて青い空がそこにあった。人間には到達することなどできないその場所は、永遠にそれ自身だけが支配すべき場所だと思う。だからこそ、俺達はこの空に黒い染みを作るようにやってきたあいつらと戦わなくちゃならねぇ。

「ったく…。ヅラは何処行っちまったんだよ…」

溜息混じりに視線を下方に動かすと、さっきまで見ていた空と同じくらい広大な地面には、俺しか立っていなかった。もっと詳しく言えば、立ってるのは俺だけで、残りの人間も、天人も、みんな身体のどこかしらから血を流して倒れていたのだ。
手当をすればまだ助かる者もいるかもしれない。けれど、この膨大な量の死体からソイツを見つけ出すのはなかなか骨が折れる。だから、帰路の途中に居るヤツだけで勘弁してほしい。俺はそう思いながら、地獄絵図を再現したかのようなこの場所を去った。




俺達の拠点まであと少し。林の下草を掻き分けながら進んでいると、そこに隠れていた石に躓き一瞬ガクンと足が縺れた。
周囲は俺のことを白夜叉なんて呼んでえらく評価してるみてーだが、俺だって一人の人間なわけで、正直今は歩くことだって辛く感じる程疲れている。自分の足に鞭を打ちながら再び歩を進めると、静かな林に無遠慮な足音が聞こえ、物陰からまるで牛みたいな天人が現れた。

「まだ生きている人間がいたか」
「ちっ…。隠れてるなんざ、姑息なヤローだ…」

相手は2人。俺に殺れねェ数じゃあない。そんな考えからか、口元には自然と余裕の笑みが浮かんだ。まずは居合で一人目を切り伏せる。

「ッ…!やべッ…!!」

武器を構えることすらできずにいた敵は首から物凄い勢いで血を噴き出しながら倒れていった。ここまでは全て俺の計算通りだった。予想外の出来事。それは、ソイツの血が俺の顔にも降りかかったことだった。必死に腕で目を擦ったものの両目の視界はなかなか晴れない。右側からもう一人の天人の笑い声が聞こえた。たぶん、ざまあみろとか、死ねとか、そんなことを言ったんだろう。
言われて初めて気付いた俺自身に迫る死。本当はもっと怖いものかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。

「死ぬん…だな…」

俺は、あまりにも呆気なく訪れたそれに虚しさを感じた。
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