夕食を終えた後の時間は各々が好きなことをして過ごすのが当たり前だった。私は夕食の片付けに明日の朝食の下準備、桂さんは読書をして、高杉さんは刀の手入れ。坂本さんはふらふらっと散歩に出掛けて、銀時は私の手伝いをしてくれる。
今日もいつもと同じように片付けに取り掛かるため皆さんの食器に手を伸ばそうとしたら、「皆に聞いて欲しいことがある」と正座をした桂さんがやけに神妙な面持ちで言った。桂さんの様子がおかしいとその場にいた誰もが気付いたらしく、部屋の空気は一瞬にして息をするのも苦しいほど張り詰めたものとなった。

「俺達はこの拠点を捨てなければならない」

静寂を切り裂いた桂さんの言葉に私以外の三人は特に驚くこともなく「やはりそうか」とでも言いたげに押し黙っていた。
桂さん曰く、彼ら攘夷志士は圧倒的に不利な立場にいるらしく、ここもいつ戦火に巻き込まれるかわからないとのこと。私の知らないところで皆さんがこんなにも追い詰められていたのかと思うと、涙が出そうなほど胸が苦しくなった。

「明後日にはここを出なければならない。そして、名前殿についてなのだが、俺達と一緒に今の本陣へ移るというのはどうだろうか?」
「えっ…?」
「おいっ……!待てよ、ヅラっ!」

ガタンと大きな音を立てて私の隣にいた銀時が立ち上がった。見上げた銀時は今にも桂さんに飛び掛かりそうなほど険しい表情をしている。

「こいつを戦場に連れていくことは許さねェ。名前は俺達の戦いとはなんも関係ねェはずだろうが」
「では、名前殿をここに置いていくとでも言うのか?その間に敵に攻撃されたらどうする?」
「それ…は……」
「俺とて名前殿を戦場に連れていくことなどしたくはない。しかし、他に方法が無いのだ。そのことはお前だってわかっているはずだ」
「くそっ……!」
「あ…!銀時っ……!」

苦い顔をして唇を噛み締めた銀時は大きな音を立てて扉を開け放つと、茜色に染まりつつある景色の中へ走り出した。その背中を無言で見つめていたら、「名前殿、本当にすまない」と桂さんが困ったように頭を下げた。

「そんな頭を下げないで下さいっ…!皆さんに迷惑をかけてしまっているのは私なんですし…」
「いや、女子を戦場につれていくなど本来あってはならないことだ。ただ、今はそれしか方法が無い…。戦場と言っても、本陣ならば戦いとは直接関係ないはずだ。だから、名前殿に危害を及ぼすことは絶対に無いと約束する」
「はい。ありがとうございます、桂さん」

ゆっくりと頷くと私は先程桂さんがしたのと同じように深々と頭を下げた。
戦場。それは軽々しく口にできないほど重たくて冷たいものだと思う。そんな場所に行くことが怖くないと言ったら嘘になるけれど、彼らと一緒だと思うだけで無性に心が落ち着くような気がした。

「あの、私、銀時を探してきますね。暗くなっちゃうと心配ですから」

くすりと笑いながら立ち上がると、同じように笑った桂さんが小さく頷いた。
  mokuji next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -